米体操界が前代未聞の不祥事に揺れている。1990年代から米国体操協会のチームドクターを務め、五輪金メダリストら200人を超える女子選手に治療目的と偽って性的虐待をしたとしてラリー・ナサル被告(54)が最長で禁錮175年の判決を受けた。米国協会理事は総辞職に追い込まれるなどの混乱が続いている。

 3日のアメリカン・カップ開会式では新たに米国協会会長に就任したケリー・ペリーさんが大型画面に映し出された。「これからは選手に寄り添い、安心して競技に打ち込めるように全力で取り組んでいく」とビデオメッセージで訴えると場内が静まり返った。体操クラブに通う娘と観戦に訪れた45歳の男性は「ひどい犯罪だ。二度とこういうことが起きないようにしてほしい」と神妙な顔つきで話した。

 米国では体操女子の注目度が高く、五輪では高視聴率をたたき出す。被害者には2016年リオデジャネイロ五輪で4冠に輝いたシモーン・バイルス選手らトップ選手も多く含まれており、衝撃が大きかった。

 国際体操連盟(FIG)の渡辺守成会長はアメリカン・カップを視察し、被害者の親からヒアリングを実施した。絶対的な権力を持つ指導者のパワハラ、セクハラ行為を目にしても親や選手が逆らえない現状が浮き彫りになり「根は深い。医師個人の問題だけでなく、米体操界の風土に根本的な原因がある」とみる。FIGは独立した通報窓口設置などの再発防止に努める。

 当初、性的虐待問題を告発した選手がいたにもかかわらず、米国協会が隠蔽(いんぺい)しようとした疑念もあり、五輪2大会金メダリストのアレクサンドラ・レイズマン選手が米国オリンピック委員会(USOC)と米国協会を訴える事態に進展した。うみを出し切るには時間がかかりそうだ。