レスリング女子の伊調馨(33=ALSOK)がパワハラを受けたと内閣府に告発状が届いた問題で、加害者とされる日本協会の栄和人強化本部長(57)がレスリング部監督を務める至学館大の卒業式が17日、愛知県大府市の同大で行われた。

 卒業式は表彰を受けた短大のエアロビチームが、エアロビを披露したり、登壇した卒業生代表の学生が歌ってから学生生活を振り返るなど明るく、和やかなムードだった。谷岡郁子学長(63)は渦中の問題に触れながら祝辞を述べた。

 

 祝辞の後半部分は以下の通り。

 

 私はメダルなんかもらったはことない、学校でも総代になれませんでした。私は何かの記録を作ったりもできませんでした。言ってみれば、そんなに目立つやつではなかった。それが私の学生時代でした。そして今日の卒業生たちは、圧倒的にメダルも持っていない、表彰もされていないかもしれない。総代にもなっていないかもしれない。でも卒業式は出発の日。これから君たちがここで培ったエネルギーを元に、きっと遠く、高く飛んでくれることと信じています。1人1人が至学館をつくっていること、みんな1人1人の頑張り、努力があってここまで来ていることを心から感謝したいと思います。目立つとか目立たないとか、そんなどうでもいいことを考えるのは止めましょう。目立っている人たちが今、どれほどバッシングされているかを考えれば。

 でも、ここから私たちはたくさんのことを学ぶことができます。例えば栄希和、栄(和人)監督の娘が、日本選手権で5位だったのに、今日から始まるW杯の代表に選ばれた。「えこひいきですね」「信じられないです」とか、そんな言葉がコメンテーターの口から出た。彼女は去年10月、アメリカでの試合で世界選手権の銀メダリストのアメリカ選手に勝っています。それを私が言ったら「その選手は親善試合だから本気でやらなかったのでは」というメールがきた。どこまで意地悪で相手に失礼なことを言う人がいるんだなと。そして希和は1月に行われたロシアのヤリギンの試合、強豪がくる世界選手権に次ぐレベルという大会で銀メダルを取っています。たしかに12月の国内の試合では力を発揮できなかったかもしれないが、外国選手に強くて、国際試合で活躍してきた人です。その所を言っていても隠して、非難を続ける。

 リオ五輪に出発した日、吉田沙保里はビジネスクラスで、伊調馨はプレミアムエコノミーで、それぞれ自費で行ったということが新聞に載って、今もネットの中にある。それを知っていて栄監督が、ひいきの選手だけビジネスクラスに乗せて、訳の分からないお金で乗せたように、ねじ曲げられている。こういうことがいっぱいある。これこそメディアによるパワーハラスメントだと思います。こんなものには絶対屈しないと思う一方で、なぜそれを起きてしまうのかと言えば、うのみにする人がいるからです。うのみにしたことを簡単に決め付ける、私たちを含めての多くの国民がいるからです。君たちはここから学んで欲しい。簡単にテレビ、ネットで流れているからといって、うのみにしない。決め付けない。真実、本質はどこにあるか、常に目を凝らし、一方的な意見ではなく、さまざまな意見、情報に広く接して欲しいと思います。歴史の流れの中の長い目線を取って、物事を見つめてもらいたいと思います。

 さもなければ、このようなパワーハラスメントのビジネスで苦しむ人が増えることを止めることはできません。私たちはより健全な社会を求めて、頑張れるはずです。同時に「だからマスコミは嫌だ」と言わないでください。森友事件の、あの状況の中でメディアが真剣に、真実を追い求めたからこそ、今日、私たちは、国が財務省が、国民にうその報告をしてきたこと、だましていたことを知ることができました。そしてこれ以上、国が私たちをだまさないようにという警鐘を鳴らしてくれました。それはとても大切なことです。私たちは、この国の主権者だけれど、選挙などを通じて、判断することができるけれど、それは真実を知り、事実を知ることができないと、判断することができません。正しい判断は、常に正しく判断する材料を私たちが持つこと。だからこそ知る権利、報道の自由は大事なのです。今回、君たちもつらい目にあっているかもしれません。でもそれは報道の自由、国民が知る権利を否定することとは、全く別次元の問題だということを知ってください。

 そして君たちが賢く生きることを心より望んでいます。本当に君たちが「至学館生だったんだよ」「卒業生だよ」と胸を張ることができるような、そんな至学館をつくっていくために教職員一同、頑張ります。後輩たちと一緒に歴史をつくっていきます。どうか見守ってください。そして、しょげた時は帰って来てください。私は学生たちを守るように、あなた方、卒業生をどこまでも守りたいと思います。だからそんな時は帰ってきて、相談して。幸せになってください。よい人生を送ってください。卒業おめでとう。