女子68キロ級決勝で悪性リンパ腫の闘病を経て約1年10カ月ぶりに復帰したリオデジャネイロ・オリンピック(五輪)同75キロ級代表の渡利璃穏(26=アイシンAW)が、関千晶(警視庁)を3-2で下し、復帰戦を優勝で飾った。全日本選手権を制している土性沙羅(東進住建)が棄権したため、10月の世界選手権(ハンガリー)代表入りも決まった。

 奇跡の大逆転劇だった。渡利は第2ピリオド24秒で2-2と追いつかれた。ルール上ラストポイントを取った方が同点では勝利となる。得点を入れなければ敗戦が決まる。あとがない残り8秒。最後の力を振り絞って、低く鋭いタックルに入り相手を場外まで押し出した。試合終了と同時に、両親、会社の応援団が見守るスタンドから上がる大歓声に、両手を突き上げて応えた。「本当に、率直にうれしい。何が何でも取る気持ちで行った」と汗をぬぐった。

 16年リオ五輪後の検査で、以前から疑いのあった悪性リンパ腫が判明した。10月中旬から抗がん剤治療に入った。全身に痛みが出て、手はパンパンに腫れた。通院だったため、1人暮らしの部屋で「レスリングに戻れないかも」と恐怖と闘った。

 支えは家族の存在だった。「家族がもう1度、五輪でメダルを取る思いを持ってくれていた」。約1年の闘病生活を乗り越え、昨年9月に練習に復帰した。父敏久さん(58)、24日が誕生日の母さとみさん(55)に感謝を優勝で伝えた。さとみさんは「感動させてもらった。誇りです」と涙を流した。

 リオ五輪では初戦の2回戦で敗退した。女子6階級で日本がメダルを逃したのは渡利が挑んだ75キロ級だけだった。「世界選手権で優勝して東京につなげたい」。悲願の金メダルへ、何度でも奇跡を起こしてみせる。【松末守司】