アジアで初となる第9回世界ラートチームカップが21日、秋田県立体育館で行われ、昨年の世界選手権上位4カ国のドイツ、スイス、日本、オランダ(1チーム4人)が団体世界一の座を争った。

1925年(大14)、ドイツ発祥のスポーツ「ラート」は、2つの金属製リングを約50センチ幅のバーで平行につなげたホイール型の器具を使う体操競技。秋田・仙北市角館町出身で、昨年大会を含め史上初3度世界選手権を制している高橋靖彦(33)にとっては、まさに悲願の地元開催となった。

高橋は最初の演技者として登場し、2本のリングを接地させ車輪のように前後に回転させる「直転」で最高点をたたき出すなど、2種目に出場しエースとして日本チームを引っ張った。6ラウンドを行い、最後はドイツに1ポイント差の2位に終わったが、勝敗は二の次だった。各国の選手が披露するアクロバチックな演技に、普段はB1秋田ノーザンハピネッツの試合で埋まる会場が、この日ばかりは日本では超マイナーといえるラートで大盛り上がりとなった。

ケガで硬式野球を断念した筑波大2年の春に、体操部を見学した際に出会った。日本での競技人口は現在でも約500人だが、「こんなに簡単にいろいろな回転ができるなんて、本当に楽しかった」とその魅力にどんどんはまっていった。卒業後は一般企業に就職も、世界王者の夢を諦めきれずに1年で退職。筑波大大学院に入り直し練習環境を確保しながら、無我夢中で競技を続けてきた。世界王者になってからは、「より多くの人に楽しさを知ってもらいたい」と伝道者としての使命も担ってきた。

今大会は選手としてだけではなく、実行委員の一人としても奔走した。秋田県や秋田市といった官公庁、そして企業への協力を地道にお願いしてきた。昨年4月からは秋田ノーザンハピネッツに所属し、B1のハーフタイムなどでもパフォーマンスを行うなど地道に普及に努めてきた。この日は、「会場に来るまで会場が埋まるか本当に不安だった」が、14年のドイツ・ベルリン大会を上回る史上最多3000人の観衆が集まり、「ゼロから始めて…」と話し始めると涙が止まらなくなった。「これだけたくさんの人が見に来てくれて。選手でいる間に地元でできるなんて、夢のようです。海外の選手、関係者もみんな本当に喜んでくれた」と大会成功に感極まった。

同じく秋田大付属中-秋田南高と秋田で育った堀口文(あや、29=筑波大特任助教)も出場し、第3ラウンドでは直転で最高点と昨年の世界選手権同種目4位の実力を披露した。「ラートを知らない人にたくさん見ていただいたことで、やってみたいと思ってくれた人、子供もいたと思う。その思いに応えられる環境を作りたい」と女子の第一人者として普及を続けていく決意だ。高橋は「まずは秋田にラートが根付くようにしていきたい。そしてまた国際大会を開けるよう普及を続けていきたい」と充実感に満ちた表情で次なる夢を口にした。【野上伸悟】