日本テニス協会が、東京五輪に向けた新たな挑戦を始める。8月の全米、9月の全仏から情報を収集し、新型コロナウイルス感染対策を施した全日本テニス選手権が28日に開幕。新型コロナウイルスが感染拡大した3月以降、同協会が開催する初の大会となる。

無観客で行われる大会の会場は、有明テニスの森公園内にある東京五輪に向けて新設された室内コート8面だ。この施設は5月に完成して以来、初のお披露目となる。日本のテニスの殿堂とも言われる有明コロシアムは、11月1日の決勝だけの使用となった。

国際テニス連盟や男女の世界ツアーと歩調を合わせ、同協会も主催大会を3月から8月まで中止。公認大会には中止勧告を行った。ドル箱だった10月5日開幕予定だった男子世界ツアー公式戦の楽天ジャパンオープンも苦渋の決断で中止に。女子世界ツアーの花キューピット・ジャパン女子オープン、東レパンパシフィックも中止に追い込まれた。

国際大会は海外選手の出入国が大きな壁となったが、全日本は国内大会だ。川廷尚弘大会ディレクター代理によると「何とか全日本だけは開催したい。95回の歴史を止めたくない」という願いだった。しかし、そこに難問が持ち上がった。有明は東京オリンピック(五輪)準備のために、屋外コートが一切使えない。そこで急きょ、室内コートでの大会に切り替えた。

資金面で全米、全仏までは行かないが、両大会に出場した選手やコーチから徹底的に情報を収集し、学んだ。7月に兵庫の室内コートで行われた非公式大会からも情報を得、同協会の医事委員会を中心に、同協会としては初めて感染症対策を施した。人数を減らすために、種目は男女シングルスに絞り、選手数は男女各32人とした。

会場はA、B、Cの3つのゾーンに分類され、お互いのゾーンは、動線に制限をかけ、一切交わらなくする。Aはコートに行ける選手や主審。Bは大会運営スタッフ。Cはメディアやスポンサー関係者だ。もちろん、全員が、会場に入るときの検温、健康状態報告は必須で、体温が37度5分以上では入場できない。

加えてAとBは、21~23日の間に在住する都道府県でPCR検査を行い、参加には陰性証明書が必要となる。また、大会前2週間の健康チェックの提出も不可欠だ。選手の検査費用は協会が負担する。会場では感染症防止のためシャワーを浴びれないため、選手は会場から直線距離で約500メートル離れた指定ホテルに宿泊をしなくてはならない。

ホテルから最大限の協力を得て、フロアを分けるなどの配慮を図る。しかし、全米のように、ホテルを借り上げることができないため、一般客もいる中での対策となる。宿泊費は協会負担だ。選手に帯同できる1人だけのスタッフも、選手同様の対策を要求される。ただ「資金面で非常に心苦しい」と川廷大会ディレクター代理が言うように、帯同スタッフの検査や宿泊費用は自己負担となる。

運営面でも工夫する。医事委員会のアドバイスに従い、練習時間帯を午前と午後に分けた。出場64人が一気に練習すると密になるため、午前と午後の試合開始前に、練習時間を設け、選手を分散。種目からダブルスをなくしたのも、単複を兼ねる選手は、会場に滞在する時間が長くなる。その密を避けるためだ。

協会にとって何もかもが初の試みとなる。川廷大会ディレクター代理は「絶対に感染者を出さない気構えでやっている」と心強い。もちろん室内と屋外、選手数や種目数、国内選手と海外選手などの違いもあるが、東京五輪に向けての指針ともなる。大会後には、東京五輪組織委員会に報告書をあげる予定となっている。【吉松忠弘】