14歳の女性プロレーシングドライバーで将来トップカテゴリーで勝利を夢見るJuju(野田樹潤)が、このほど日刊スポーツのインタビューに応じ、21年の抱負を語った。20年は欧州に渡り、デンマークF4選手権に参戦。6月の開幕戦でいきなり「ポール・トゥ・ウィン」を飾った一方、多くの悔しさも味わった。女性ドライバーが欧州でもまれ、感じた現在地とは-。【取材・構成=松本航】

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3歳でカートに乗った少女は、21年2月2日に15歳となる。中学3年間で身長は約15センチ伸び、発する言葉も頼もしさが増した。

20年。Jujuは元F1ドライバーで父の野田英樹監督(51)らと、欧州に渡った。未知の挑戦だった。

「2年前ぐらいから『いつか海外に行くよ』という話は聞いていたんですが、思ったより早かったです。行く準備をして、どんどん実感が湧いてくると『大丈夫かな?』とも思いました。日本でしか走っていなかったので、自分の実力がどこまでなのか。最初はボロ負けする覚悟で行きました。父からも『つらい1年になるかもしれないよ』と言われていました」

東京で生まれ、それまでは岡山を拠点に練習を積んでいた。幼少期は遊び半分だったが、勝負に負けると大声を出して泣いた。父は以前「父親目線で見ると『この競技をやる必要ないんじゃないか』と思いますよね。基本的にはあり得ないんですが、それでも走っている限り、もし何かが起こった時に万が一(の事故)があるので…」とも言った。だが、愛娘の姿を見て最大限のサポートを誓った。

デンマークF4選手権は国際自動車連盟(FIA)が定めた国際規格に基づくレース。14歳以上の参加が可能なため、挑戦の地に選んだ。新型コロナウイルスの影響で2度延期され、6月に迎えた開幕戦。ポールポジションからレースを引っ張り続け、デビュー戦での初勝利で衝撃を与えた。

「開幕戦で勝てるとは思っていなかったです。日本ではレースの数も少なかったけれど、同年代の選手たちが上を目指して頑張っている。その中でやる。それはやっぱり欧州に行って良かったことだと思います」

だが、そこからが本当の勝負だった。

「頭では分かっていても、いざ経験してみると全然違う。そういう難しさ。速さだけではどうしようもない部分も見えてきました」

異国から来た14歳の少女はマークされ、時に強引な形で車両を当てられた。

「日本はざっくり言うと『いい子』という感じ。でも欧州に行ったら走りもギリギリを攻めてきて、飛び出す回数も多いし、『何をしてでも勝つ』という感じがありました。日本は危険な走りをしたら謝りに行くけれど、自分が100%悪くても謝らなかったり…」

9月の第7戦。低速コーナーの進入で、タイヤをロックさせた後続に強引に当てられて10位。第8戦も衝突と理不尽に思える展開が続いた。Jujuは相手のピットで意見を主張した。

「メンタルは強くなったと思います。男の子相手でも怒鳴り込みに行きました。行ったばかりの自分ではできなかったし『我慢していればいいや』ぐらいに、思ってしまっていたはずです。英語が完璧でなくても、主張するところはしないといけないと感じました」

百戦錬磨の父は言った。

「ケンカ自体はしないにこしたことはないけれど、納得がいかないことは、相手にアピールすることも必要です。なめられないためにもね。相手が抜きにきた時に道を譲っていたら『コイツは譲ってくれるドライバーや』と思われる。相手に警戒心を持たせて、意識をさせることは、強いドライバーになるために必要なことですよね」

日本にいた時には、できなかった経験だった。

コロナ禍で10月の第10~12戦が突然中止。そのままシーズンは思わぬ形で打ちきりとなった。現地の学校にも通えたのは3週間ほどといい、欧州のコロナの影響は大きかった。Jujuは激動の1年を総括した。

「悪いことも、いいことも、全部が自分の経験になりました。ぶつかってくるっていうのも、向こうに意識されているから。来る前は『通用するのかな』という不安があったけれど『ちゃんと通用している』というのも、自分の自信になりました」

高校生となる21年。手にした色紙に「すべての経験を楽しむ!!」と記した。単に「楽しく走る」ことではないという。Jujuは「壁を乗り越えることを楽しむ」と言って、続けた。

「15歳になると(デンマーク以外でも)いろいろなレースで走れるようになります。自分ができることを精いっぱいやれば、次の新しいチャンスが来る。でも経験が足りないから、また壁が来る。それを乗り越えたいです。2021年もそういう年にしたいです」

14歳の夢はぶれない。

「今までも『F1レーサーになりたい』って言っていたんですけれど、それは今のレースの頂点だからです。自分が年齢を重ねた時は、頂点が変わっているかもしれない。とにかくトップカテゴリーのレースに出て、勝つことが夢です」

Jujuはいつも「勝つ」という言葉を添える。

「『勝たなかったら意味がない』って思います。『出ただけか』ってなりますし、どうせ出るなら勝ちたい。『勝つしかないでしょ!』みたいな感じです」

親子の合言葉は「負けても負けてもあきらめない!」。挑戦を楽しみ続ける。