国際オリンピック委員会(IOC)副会長で、東京オリンピック(五輪)・パラリンピック開催準備の実務トップ、ジョン・コーツ調整委員長(71)が21日、今夏の大会期間中に緊急事態宣言が発令された場合でも開催すると断言した。

東京大会の準備状況を確認するIOC調整委員会の最終日に会見し、宣言下でも実施するか問われると「イエス」。万全の新型コロナウイルス対策を講じた上での開催への強い決意を示したものだが、実施を疑問視する世論に逆行した発言は波紋を呼びそうだ。

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オーストラリアからオンラインで出席したコーツ委員長は、日本国民の心配をよそに直球を投げ込んだ。

--大会期間中、東京都に緊急事態宣言が発令された場合でも開催しますか?

コーツ委員長 今も宣言中だが、5競技のテスト大会が無事に行われた。最悪の状況を想定して成功裏に終わっている。あなたに対する答えは「イエス」だ。

14年6月に始まった準備状況を確かめる調整委。今回が11回目で大会前最後の会議だった。議論の大半がコロナ対策に割かれた3日間を終え、成果に自信が満ちあふれたか。世論調査では約6割が中止を求める逆境下、自信に満ちた表情は傲慢(ごうまん)に見えてもおかしくない。国内感情を逆なでするには十分だ。

会見後半も、ぶれなかった。政府の分科会で専門家から「宣言中の開催はあってはならない」との意見が出たことを振られたが「宣言下であってもなくてもWHO(世界保健機関)などから医学的アドバイスを得てプレーブック(行動ルール集)を定めた。安全かつ安心な大会が行える」。その強気さが、また国民との隔たりを浮き彫りにした。

組織委の橋本会長も、同じ質問に「できるということを確信しながら、ご理解いただける徹底策を講じたい」と続いた。来日人数削減、健康・行動管理、医療体制見直しの「3つの徹底=3徹を施す」と、来日関係者を18万人から7万8000人に減らしたり、これまで非公開だった1日に必要な医師、看護師の目安を出した。理解を得るための情報開示だったが「イエス」に吹き飛ばされた形。コーツ氏も、選手村関係者へのワクチン追加提供を示唆し「接種率が高まれば支持率も上がるはず」と述べたが、自ら目立たなくした。

仮に7月23日の五輪開幕以降、宣言が出た場合でも組織委は政府方針に従うしかない。日本の決定を尊重する-等の補足がないIOC大幹部の発言は、開催国軽視と受け止められる可能性もある。コーツ氏は考えを曲げない理由に「アスリートのため」を挙げ「彼らが夢果たせるように。1番大事なことは日本国民を守ること、次がアスリートにチャンスを与えることだ」と力を込めたものの、開幕2カ月前に批判の火に油が注がれた。【木下淳】

<最近の五輪開催をめぐるIOC幹部たちの発言>

「(緊急事態宣言は)ゴールデンウイークと関係しているもので、東京五輪とは関係ない」(トーマス・バッハ会長) ※4月21日のIOC理事会後の会見での質疑で。

 

「皆様は国内の連帯感を持ち、しなやかさを持っている。粘り強さ、へこたれないと言うことは歴史を通して証明している。この能力を持って逆境をはねのけ、オリンピックが行われることを楽しみにしている」(トーマス・バッハ会長)※4月28日の5者協議の冒頭あいさつで。

 

「世論は注意深く見ている。気に掛ける必要性もあるが、それによってIOCが動かされるわけではない」(マーク・アダムス広報部長)※5月12日の理事会後の会見で。