男子予選が行われ、種目別の鉄棒に出場した内村航平(32=ジョイカル)は14・300点の5位で決勝に進んだ。難度を落とし、細かいミスはあったが「結果じゃない」と力説。予選落ちに終わった東京五輪以来となる国際大会で、観客の前で演技を見せることの価値を訴えた。五輪史上最年少で個人総合を制した橋本大輝(20)は個人総合で6種目合計88・040点でトップ。種目別の鉄棒も14・633点のトップで予選通過した。

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内村には腹案があった。演技を終えると、荷物に忍ばせた日本代表のTシャツを取り出す。サイン入りのお宝を丸めて握ると、スタンドに投げ入れた。「Tシャツを余分にもらえてたので、使えるなと」。サプライズに沸き上がる観客席に、自然に笑顔が浮かんだ。

「有観客だし、そういったことはしっかりやらないと。勝手なことをするの僕くらいしかない、突拍子もないことを。それならもっと、楽しんでもらえるかなと思ってやりました」

高揚していた。大会は新型コロナウイルスのワクチン接種や検査の陰性証明を活用し、利用可能な客席数の上限まで観客を入れる政府の実証実験の対象。久々に会場で応援してくれるファンの姿が、この上なくうれしかった。

東京五輪、9月の全日本シニアと無観客が続いた。「拍手に温かみを感じた」。演技には納得はいかなかった。冒頭のH難度「ブレトシュナイダー」は着手でバーに近づき、求める美しさには遠く、倒立のミスなどもあった。ただ、苦い顔はなかった。「もう、これだよな、これが試合だよな」と震える実感があった。

「結果はどうでも良いんだなと思いましたね。僕の場合は散々、残せるだけ残してきた。お客さんがいる中で演技をやる、盛り上がってもらう。それがスポーツのあるべき姿。ぶっちゃけ、それだけで良かった」

演技で恩返しを誓う対象は身近にもいた。16年のプロ転向後から二人三脚の佐藤コーチ。重圧で帯状疱疹(ほうしん)を発症している現状を知り、「本当に大変な思いをして、ついてくれている」と感謝が募る。構成から五輪で落下したひねり技を外したのも、同コーチの助言だった。生まれ故郷での大会。「ちなみにTシャツはまだまだ用意してます」。楽しそうに、にやりとした。【阿部健吾】