18年平昌オリンピック(五輪)500メートルの金メダリスト小平奈緒(36=相沢病院)が、地元長野での現役ラストレースを有終のVで飾った。

12組中11組目、満員の慣れ親しんだリンクに大歓声を浴びて登場。37秒49の好タイムで、北京五輪銀メダルの高木美帆(28=日体大職)を0秒69上回って優勝した。

競技を終えると笑顔で手を振りながら1周し、その後、次走の高木らを気遣って拍手や声援を抑えるよう促した。最後まで「らしさ」を見せていた。

場内インタビューでは「本当に、夢にまで見たこの会場で滑ることができて、幸せでいっぱいです。(テレビ)画面で(98年長野五輪を)見た時より、人のぬくもりを感じました。この会場が温かく包まれるような感じでした。今朝、アップで滑る後を追うように拍手が流れ、ウエーブのようになって背中を押される感じでした。それ以上、皆さんの顔を見ると涙が流れてしまうので、レースに集中しました」と感無量の表情で振り返った。

会場は収容6400人のチケットが完売。施設職員が「満員は(98年)長野五輪以来ではないか」と説明する盛況となった。最高の花道に小平は「閑散とした中で滑ることが多かったけど、長野、信州で生まれ育った私としては本当にありがたい。(満員の場内が)イメージ通りなのか、違った景色が見られるのか、楽しみ」と夢を膨らませていた。

一方で試合に向けては「本当に夢中で、感情の扉が開く隙がなかった」と言うほど集中を極め、最後のレースで頂点に立った。

五輪では10年バンクーバー大会の団体追い抜きで銀メダル。4年前の平昌大会500メートルでは、日本女子初の金メダルを獲得した。主将は勝てないジンクスも破った。1000メートルの銀メダルも手にしている。

500メートルでは16年から37連勝の記録も樹立。今も500メートルの日本記録36秒47(19年)を持つ。17年には1000メートルで日本女子初の世界記録1分12秒09(当時)をマークした。

W杯は昨年12月の1000メートルを制し、通算34勝。「神の領域の人」と称す清水の日本最多勝利数に並び、自身も同じ領域に足を踏み入れた。

4月12日に、この日を最後に引退することを表明。万感の思い、万全の状態で現役最後となる公式戦の氷に乗っていた。

試合後の取材エリアでは「過去の自分には届かなかったんですけど、本当に夢にまで見た空間の中で滑ることができたというのは、五輪でメダル取った時よりも、世界記録に挑戦した時よりも、ずっと、私にとって価値のあるものだったなと感じました」と声を震わせながら語った。

長野五輪とは違う景色だったか確認されると「画面越しでは伝わってこなかった、人のぬくもりが感じ取れましたね。人生で初めて鳥肌が立ったのが長野五輪だったんですけど、鳥肌を越えて、心が震えて(心臓が)飛び出てきそうな感じでした」と笑顔で感謝して締めくくった。【木下淳】