モータースポーツの本場欧州に乗り込んでF1を目指している若きドライバーがいる。F1の登竜門フォーミュラ・リージョナル欧州に単身で挑んでいる山越陽悠(ひゆう=18)で、今季は7戦(14レース)を終えて2度表彰台に上がり、総合ランク8位につけている。第8戦(9月20、21日、スペイン)からの残り3戦でさらに順位を上げ、F3、F2とステップアップして28年からのF1を狙っている。
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片言の英語がネーティブになってきたように、山越の走りにも磨きがかかってきた。欧州挑戦4年目、F4とF3の間のカテゴリー、フォーミュラ・リージョナル欧州にステップアップ。第2戦(ベルギー)レース2で2位、第3戦(オランダ)レース2では惜しくもポールポジションは逃したが、決勝では2位を守り切った。総合では日本人トップの8位につける。「2年目の選手は手ごわいが、互角の戦いができていると思う」と自信を見せる。
23年にフォーミュラリージョナル欧州で総合優勝したアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)は24年第16戦イタリアGPでF1デビューし、今年の第3戦日本GPでは最年少18歳でレースの先頭を走った。21年の最優秀新人アイザック・ハジャーは今年からレーシング・ブルズの正ドライバーになった。このカテゴリーは、いわばF1の登竜門といえる。山越も同じ道を目指している。
第6戦(イタリア)レース1ではクラッシュして無念のリタイア。他車との接触時は時速220キロ、タイヤバリアーには150キロでぶつかった。幸いケガはなかったが、初めての経験で過呼吸になったという。翌日の予選は事故の影響もあり19位と出遅れたが、決勝では11位まで順位を上げた。「予選ではブレーキングやリズムが崩れていたが、レースではラップごとに調子をつかめていった」と言う。
2014年にグアムで初めてカートに乗った。「タイムは遅かったが、走るのが楽しかった」と翌15年から本格的にカートを始めた。カート仲間で、世界3大レースの1つであるインディ500を2度制した佐藤琢磨を父に持つ佐藤凜太郎が欧州で走る姿に「オレも行きたい」という気持ちになった。父尚昭さんと約束した19年トヨペットSL全国大会YMAHASSクラスでの優勝を果たし、欧州挑戦を決めた。「まさか優勝するとは思ってなかった」と尚昭さん。うれしい誤算となった。
カートで実績を積み、欧州から単身でF1を目指す日本人ドライバーは過去にもいる。今年のスーパーGT第3戦で優勝した笹原右京(29)もその1人。国内外のカートで実績を積んでFルノーへ。総合3位に入るなど周囲をうならせたが、3年で日本に舞台を移した。「速いのは当たり前の世界。僕は竹やりで挑んでいた。F1へのストーリーとマネジメント、フィジカル、メンタルなどのチームをつくる必要がある。また言葉だけでなく、イエス、ノーをはっきりさせる文化の違いに慣れることも大切。僕は悔しい思いをしたが、いつか日本人ドライバーがF1で優勝する日が来るはず」と後輩に希望を託す。
「日本語と違って、英語だと強気になって思ったことをいえる」という山越は第1関門突破。マネジメントなどチームもできつつある。来年はF3、27年にF2へとステップアップして、28年にF1へというストーリーも描いている。「まずは予選のタイムを速くして順位を上げたい。グリップ不足だったマシンも改善されてきている。信念である自分のことを信じ続け、自分の意思を押し通してやっていきたい」。F1への後半戦が始まる。
■スイス全寮制の高校3年
山越には学生という顔もある。スイスのレマン湖のほとりにあるモントルーの高校3年生。卒業生にF2に参戦していたラルフ・ボシュングがおり、ドライバーの受け入れに慣れていることが決め手となった。
全寮制で、月曜から金曜の午前9時から午後4時まで授業を受けている。好きな課目は英語。「本当はレースに集中したいが、今後の人生のためにも英語を身につけたいので」。中学卒業後すぐに渡欧したが、英語のレベルを考え、留学1年目はあえて中学3年からスタートした。最初はメカニックの言葉が分からず、「ビッグ」「スモール」など片言の英語でセッティングにも苦労したが、今ではケンカもできるまでに上達した。
楽しみは夕食。肉や魚の主菜にパンなど。「たまに焼き肉を食べたくなりますが、日本食が恋しくなることはない」。欧州の文化に溶け込むトップドライバーの資格は十分だ。
<レースカテゴリー(欧州)>
FIA Formula1=世界最高峰のモータースポーツレース
FIA Formula2=F1の直下に位置するカテゴリー。F1チームへの、最後のアピールチャンス
FIA Formula3=F2の下に位置するカテゴリー。F1レースの併催カテゴリーのためF1・F2チームにアピールできる
Formula Regional=F3の下に位置するカテゴリー。世界各国で開催されている。現在、山越はここに位置している
FIA Formula4=世界各国で開催されるレーシングカートからステップアップを想定した入門カテゴリー
◆F1への道 F1にはマクラーレン、レッドブル、フェラーリ、メルセデスなど10チームが参戦している。所属ドライバーは各チーム2人で全20人という狭き門だ。
レースカテゴリーは6つあり、入り口はカート。続いてF4、山越が参戦しているフォーミュラリージョナル、F3、F2とステップアップしていく。
F1を運転するにはFIA(国際自動車連盟)の定めるスーパーライセンスが必要になる。取得条件にはF4、F3、F2、フォーミュラE、スーパーフォーミュラなどシングルシーターのレースシリーズに少なくとも2シーズン参戦し、申請前の3年間でスーパーライセンスポイントを40以上獲得していることなどがある。
◆山越陽悠(やまこし・ひゆう)2006年(平18)10月13日、東京・板橋区生まれ。板橋五中卒業。15年にカートを始め、20年全日本カート選手権総合2位、同東地域東西統一戦FS125クラス優勝、21年全日本カート選手権OKクラス参戦。22年欧州カートレース参戦。23年フランスF4総合5位、スペインF4総合14位、24年イタリアF4総合3位(2勝)欧州F4総合4位(2勝)。177センチ、62キロ。好きなドライバーはスーパーGTで4度総合優勝を獲得したロニー・クインタレッリ。「逆境の中、1発でタイムを出し切るのがすごい」。


