角界がショックに見舞われた。1928年(昭3)1月からラジオで、53年5月からテレビで本場所の中継を続けてきたNHKが6日、名古屋場所(11日初日)で生中継を行わないことを決めた。ダイジェストは連日放送する。日本相撲協会は村山弘義理事長代行(73=元東京高検検事長)ら幹部がこの日、東京・渋谷区のNHKを訪れ、野球賭博問題の再発防止の取り組みなどを説明し、生中継を要請した。しかし、改革への取り組み方が甘いと指摘され、却下された。自らまいた種で、前代未聞の事態に追い込まれた。

 お茶の間から生の相撲が消える。愛知県体育館で、NHKの生中継中止を知った名古屋場所担当部長の二所ノ関親方(元関脇金剛)は「本当にショックで残念です。真摯(しんし)に受け止めないといけない」と落胆した。「原因は何だと思うか?」と問われると「暴力団とのつながりが一番の原因」と答えた。

 昨年の名古屋場所での暴力団関係者観戦問題、野球賭博問題が噴出し、NHKは中継に慎重な姿勢を示してきた。相撲協会は、4日の臨時理事会で賭博にかかわった力士らの大量処分に踏み切り、外部理事の村山氏の理事長代行就任も受け入れた。

 この日、村山理事長代行らはNHKを訪問し、一連の問題の再発防止への取り組みを説明。浄化への道筋をつけたとして、中継継続を要請した。しかし、訪問から約2時間後、「NO」を突きつけられた。改革の具体案が乏しいと判断された。身内に対し厳しい処分を科してきたつもりだが、NHKから想定外の「厳罰」が返ってきた。

 半世紀以上続いた全国のファンへの発信を止められたにもかかわらず、この件について村山理事長代行は会見を拒否。「厳粛に受け止めております。相撲協会においては、新生した姿で名古屋場所を立派に務めるべく、全員一丸となって総力を挙げて取り組みます」との談話を発表した。

 弟子の野球賭博関与で謹慎中の武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は、山科親方(元小結大錦)からの電話で報告を受けた。NHKに同行予定だったが、血圧が上がり、自宅療養。山科親方は「体調が悪いこともあってトーンは低かった。中継はやるか、やらないかしかないし、どこか覚悟があったのでは」と明かした。NHKに同行した尾車親方(元大関琴風)も「これまで誰も経験したことがないから、この先どうなってしまうか、どういう弊害があるのか想像もできない」と、肩を落とした。

 日本相撲協会では、独自に3台保有しているテレビカメラを使い、有料で携帯電話やインターネットでの中継を行っている。名古屋場所も同様だが、十両以下の取組は扱っていない。幕下以下から放送していたNHKの衛星放送のようには、熱心なファンの要求に応えられるとは言い難い。

 二所ノ関親方は「(ダイジェストでは)しこ名を呼び上げられてから(仕切りの度に)体が紅潮していくプロセスが見せられないのは残念」と、生の魅力が消えることも懸念した。50年以上続いた生中継の伝統。懸賞などスポンサー離れは顕著で、この日の決定はファン離れを加速させかねない。自らまいた種とはいえ、角界は大きな代償を払うことになった。