飲酒運転の尾上親方(41=元小結浜ノ嶋)に温情裁定が下った。日本相撲協会は20日に東京・両国国技館で臨時理事会を開き、18日に酒気帯び運転の道交法違反で摘発されたことへの処分を協議。親方の階級で最下位の年寄に10年間据え置きの処分を決めた。7月24日の名古屋場所千秋楽まで謹慎とし、今後同様の不祥事を起こした場合は部屋閉鎖の誓約書を提出させる。弟子の今後を考えて「もう1度チャンスを与える」と、最悪の解雇、部屋取りつぶしは逃れた。

 1人の親方の処分を巡り、会議は1時間を超えた。解雇や部屋閉鎖の意見も出た。放駒理事長(元大関魁傑)は「協会が置かれている立場を考えた場合、あまりにも軽はずみな行動をやらかしてしまった。厳しい意見が大多数だった」と説明した。しかし、結果は平年寄に10年間据え置きと、名古屋場所千秋楽まで3カ月余りの部屋謹慎処分にとどまった。

 これまで把瑠都が合計3度服装で厳重注意を受け、八百長問題では10力士中3力士が関与で引退した。親方も2階級降格処分を受けたばかり。師匠としての資質、指導力にも大きな「?」がついている。「一般社会」なら厳罰必至で解雇も仕方ない。理事長は「部屋をどうするかの話もあったが、もう1度チャンスをやろうとなった」と説明した。再び不祥事を起こした「再犯」時には部屋閉鎖の誓約をさせた。それでも甘いと言わざるを得ない。

 背景には解雇、部屋閉鎖になった場合の混乱と、弟子の行く末がある。

 昨年、熊本工大高(現文徳)から日大、三保ケ関部屋と同期の木瀬親方(元前頭肥後ノ海)が、暴力団へ維持員席を手配して部屋閉鎖となった。所属力士は北の湖部屋へ移籍。ところが元前頭清瀬海は八百長関与で引退。野球賭博で処分を逃れた北の湖親方も、理事を辞任せざるを得なくなった。

 12月には週刊誌上で八百長を認めた当時の宮城野親方(元十両金親)が、師匠交代勧告を受けた。退職勧告が多数だったが、妥協案となったのは、横綱白鵬の部屋という事情があったからだ。尾上部屋にも協会の看板の1人である大関把瑠都がいる。弟子の今後を考えた温情裁定でもあった。

 タクシーで国技館入りした尾上親方は、理事会で「申し訳ない」と平謝りし、裁定後の会見でも立ったまま何度も頭を下げた。「また生かしてもらった。口だけでなく態度で示していきたい。一から勉強していきたい」。八百長問題の評議員会で役員に詰め寄った威勢はなく、神妙な受け答えに終始した。

 危なっかしい運転が続く角界。安全運転できる日はくるのだろうか。【編集委員・河合香】