第78回東京箱根間往復大学駅伝競走：2002年１月２日（往路）３日（復路）

駒大総合Ｖ復路は新記録

　復路スタートを待つ吉田の携帯電話が鳴った。「お前ならやれる！」。声の主は、前日２日の往路４区でチームに勢いをつけた松下（３年）だった。手袋には高橋主将が書いた「リラックス」の文字。気温０度の芦ノ湖畔で胸が熱くなった。上級生の思いとともに、１万メートル記録なしの無名男が山を駆け下りた。

　トップとの２３秒差が、じわじわ縮まる。６・２キロ地点で神奈川大をとらえた。区間２位の好走で、逆に後続との差を１分５１秒つけた。昨年、６区走者・松下の手伝いで訪れた天下の険で、今度は自分が主役になった。「（選手の適性を）練習で見抜くことですよ」と話す大八木弘明コーチ（４３）は「６区が終わった時点で優勝を確信した」と振り返った。

　「カッワムラッ！　カッワムラ！」。ゴールで、アンカー河村を待つ選手たちがほえていた。程なく、タスキは箱根から大手町へ、復路史上最速で運ばれた。胴上げだ。河村らが、次々と宙を舞う。７区以降、紫のタスキは他校の視界に入らなかった。波乱なき独走に、中継する日本テレビ関係者は頭を抱えたほど。退屈にも見えた展開は、駒大の強さを浮き彫りにした。

　選手層の厚さが２年ぶりの箱根路制覇につながった。学生トップクラスに相当する１万メートル２８分台のランナーは最多６人を擁す。それでも、うち２人は調子のいい選手に代えられた。他校なら名前で主力になれる者が出場すらできない。すべての展開、局面を１人の走りで変えてしまうほどの「大砲」はいない。昨年こそ、あと１人の駒が足りずに最終１０区で順大に逆転を許した。だが、柱の崩壊がチーム成績に直結する他校とは対照的だった。

　大八木コーチは言う。「（初優勝した）２年前は、故障も体調不良もなくて思った区間配置ができた。今回は、層がものすごい厚かったなと思います」。マラソン日本最高記録保持者の藤田敦史（２５＝富士通）らＯＢが実業団並みの練習をこなし、データが蓄積された。「月間１０００や１５００キロという数字は関係ない。質のいいトレーニングを夏場にやる」（大八木コーチ）。練習量だけに頼れば、故障の原因にもつながる。適度な加減が参考材料とし、後輩たちに生かされた。

　松下は「前の優勝の時と雰囲気が違う。次の人が信頼できると安心して走れる」と厚い層が生むプラスの効果を説明した。首脳陣は来季も同レベルの戦力で駅伝を組めると手ごたえを得ている。黄金時代の予感もある。今年は創立１２０周年。野球が昨秋の明治神宮大会を制し、サッカーは全日本大学選手権で優勝した。駅伝も昨年の雪辱を果たし、メモリアルイヤーに歴史を刻んだ。【佐々木一郎】

　◆箱根駅伝の記録　９９年に１０区が１・７キロ長くなり、００年に５、６区のコースがともに約４メートル長く変更された。往路復路とも新しくなった００年に駒大が総合１１時間３分１７秒、往路５時間３３分４０秒、復路５時間２９分３７秒で優勝し、それぞれ新コースでの新記録とされた。

（写真＝復路を制した駒大のアンカー河村は２年ぶりの総合優勝に歓喜のガッツポーズでゴールテープを切る）

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