広島桑原樹内野手が8月28日姫路球場で行われた阪神戦まで開幕から全試合に出場している。

 非常に珍しいケースで、注目して見た。すでに90試合以上を消化している。1軍でレギュラーに定着したチームの中心選手にはよくあることだが、ファームではほとんど見かけない。各若手の力量を見極めたり、1軍戦力の調整もあって連続して出場するのは皆無に等しいからだ。

 全試合出場の意図するところは期待のあらわれだ。入団2年目。昨年の成績は46試合に出場し112打数20安打の打率1割7分9厘、本塁打はなしで9打点。三振28、四球1、盗塁2。特に数字が目立っているわけではないが、光るものがあるのだろう。水本2軍監督のお眼鏡にかなった。

 一番の決め手は成長の度合いだ。同監督の目にはどう映っていたのか聞いた。

 「シーズン初めから故障さえなければ休ませるつもりはありませんでした。桑原はゲームの中でいろいろな状況を判断して動けるようになりましたし、練習でも打つこと、守ることなど手を抜くことなくきっちり練習をする選手です。体つきはちょっと見ひ弱そうに見えがちですが、体は大きくなっていますし、実際は元々結構強い方なんです。もちろん、これからも同じように起用していきますし、もっと、もっと成長してくれることを期待しています」(水上監督)と急成長のプロセスに楽しみを抱いているようだ。

 今季成績を見ると、昨年との違いが一目で分かる。全92試合に出場し305打数77安打、打率2割り5分2厘27打点。本塁打は1本のアベレージヒッターだが、注目したいのは足だ。チームトップの18盗塁をマークしていおり、すべての数字が昨年を大きく上回っている。その評価が全試合出場であり、チームの期待度がよく分かる。

 ファームは連日の猛暑日。炎天下の中での過酷なゲームだ。さすがに疲れが出たのか6月の終盤から7月にかけて、7試合連続無安打という時期もあったようだが、すでに調子を取り戻している。プロの世界である。これしきのことでへこたれていてはひのき舞台で活躍できない。常に心技体の充実をはかり、プロとして必要不可欠な頭をリフレッシュしてグラウンドに出ることが“務め”なのだ。

 「疲れていた時期もありましたが、いまは大丈夫です。スタミナがついてきたような気がしますが、いい体験をさせていただいています。1シーズンを乗り切るためには、もっと体力をつけないといけないと思っていますから」(桑原)

 高校を出てまだ2年目。一つ、一つのプレーを基本から。自分に合ったプレーをつかむための反復練習が欠かせない時期。打撃ではバットを構えた時のトップの位置。スイングの軌道。フォームの固定等々。守備では打球を捕球する時の足の運び、グラブさばき、捕球体勢。走塁時は打球に対しての判断、相手守備のスキを見抜く目配りなど大いに勉強する時だ。試合前の練習を見ていてもバッティング、フィールディング、走塁と休む間がない。試合に入っても集中力は途切れず、3試合ともきっちり安打を打った。

 1軍に目を向ける。同ポジションには、セカンドに菊池がいて、ショートには田中がいる。両選手ともまだ20歳代、大変なライバルの存在がある。試合後取材に行った。若い。童顔そのものだが、真っ黒に日焼けして、たくましく見える。まず全試合に出場している現状を聞いてみると、しばらく反応がない。やや時間を置いてから「そうですねえ。こうして毎試合出られるのは勉強になってありがたいです。ベンチで試合を見ているよりいろいろ体験できますから」と桑原。平然としている。もう、試合に出場するのは当たり前。疲れなど全くない証しで体力強化は着々と進んでいる。強力なライバルについては「尊敬しています。目の前にいい目標がありますし、雲の上の人です。2人を目指して頑張ります」。たたき上げのカープ戦士へ、また1人若手が成長している。これが現在セ・リーグのトップを快走する広島の根源だろう。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)