日本一に輝いた昨シーズン。あるビジターゲームで木浪聖也が活躍したときだ。その遠征にこちらは体調不良で参加していなかった。後日、そのことを木浪に話したとき、こんなことを言ってきたのである。

「そうなんですか。(球場に)来てないな、と思ってました。でも、そういうときもないとダメですよ」

これには、少しだけ、驚いた。これまで60年と少し生きてきた中で、そういう物言いをする人に会ったことがなかったからだ。

体調面、あるいは精神的でコンディションの悪いときに「そんなときもある」「たまにはしんどいときもあるよ、誰でも」などと言われるのは普通だし、こちらも発したことがある。

だが「ダメなときもないとダメですよ」というのはなじみがない。その割にはなんだかしっくりくる名言に聞こえて、木浪という男を見直したことがある。

こんな話を書くのは、言うまでもない、木浪が3失策を記録してしまったからだ。試合前まで無失策。正直、まだ1個もやってなかったの? と思ってしまったが間違いなかった。

1軍戦力として“完全復活”した昨季、木浪は127試合に出場している。そこでの失策数は「10」。12、13試合に1つはエラーした計算だ。ところが今季は試合前まで23試合を終え、失策していなかった。

「ここまでに1、2個やってれば…」などと勝手に思ったりしたが1試合で3失策は厳しい。4回に握り直してミス、さらにカットマンとしての送球を地面にたたきつけた。7回はゴロをそらす。「守備の要」の遊撃手としては、つらいゲームになったろう。

プロ野球には関係者が言ってはいけない言葉がある。「こんな試合もあるさ」というフレーズだ。なぜ、いけないか。説明するまでもないがファンのためだ。今季、この試合しか見にこれないファンがいる。いや、一生でこの日しか甲子園に足を運べない人だっているかもしれない。だからこそプロは常に全力でベストのプレーを心がける責任があるのだ。

だがプロでも人間。人はミスをする。大小の差はあれ、失敗経験のない人はいないはず。今季を終え、昨季より木浪の失策数が減っていれば、この日の3失策が意味を持つかもしれない。接戦を落とすより、大敗の方がマシというのもこの世界。ゆるいことをいうが大事なのは次である。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ヤクルト 4回表ヤクルト無死一、二塁、遊撃手木浪は武岡のゴロで併殺を狙うがファンブルする(撮影・上山淳一)
阪神対ヤクルト 4回表ヤクルト無死一、二塁、遊撃手木浪は武岡のゴロで併殺を狙うがファンブルする(撮影・上山淳一)