釜石(岩手)が、小豆島(香川)との21世紀枠対決を制し、20年ぶりの出場で甲子園初勝利を収めた。エース岩間大投手(3年)は9回を完投し、1失点に抑えた。東日本大震災のため今も行方不明の母成子(せいこ)さん(当時44)に、震災から5年がたった被災地に、届ける魂の勝利だった。

 一塁側アルプススタンドが完封を期待した9回、ついに1点を失った。2-0の1死一塁。遊撃手がゴロを足ではじいた打球を、カバーした左翼手が後逸してしまう。1点差に詰め寄られても、釜石の男・岩間には「鋼鉄の意志(こころ)」があった。

 「ピンチの時には、母が後ろについてくれているので大丈夫だと思った。アルプスを見れば、みんながいたので大丈夫でした」。130キロにも満たない直球を低めに淡々と投げ込んで、この日5度目の三塁のピンチを脱した。入魂の122球目。27個目のアウトは二塁ゴロだった。「母のおかげで今があると思っている。感謝している。とにかくありがとうと伝えたい。正直、9回完封を狙ったけど、公式戦でしたことないので」と飛び切りの笑顔を見せた。

 投げる前から気持ちは最高潮に達していた。試合開始1時間前、佐々木偉彦(たけひこ)監督(32)から選手に対し、パソコン上でメッセージ動画を送られた。「甲子園に出られたのは岩間のおかげ、感謝しています」との言葉に震えた。「あれで絶対勝つという気持ちが強くなった」。室内でのアップでは1人涙を流しながら走った。登板直前には帽子のひさしに「強気」と書き込み、マウンドに向かった。

 アルプススタンドで父茂さん(47)は言った。「震災や母の話は1度もしたことないけど、言わなくても分かっている。5年という時間で、大は起きた出来事を消化している」。そんな岩間の大仕事に、父は「素晴らしい。誇りの息子です」と感無量だった。兄仁さん(19)は「お母さんは喜んでくれていると思う」と言葉を続けた。

 20年、閉ざされた扉をこじ開けた。「自分たちの代で歴史をつくれたのは誇りになる。震災を乗り越えてきたという意味では、絶対負けられなかった。被災地の方の期待に応えられた」。多くを背負って戦った。勝利の瞬間、エースは軽やかにジャンプした。【高橋洋平】

 ◆岩手県の公立校勝利 釜石が勝利。センバツの岩手県勢で勝ったのは72年専大北上(2回戦敗退)84年大船渡(4強)09年花巻東(準V)13年盛岡大付(3回戦敗退)に次ぎ5校目で、公立校では大船渡以来32年ぶり2校目。