メジャー最速男として知られるヤンキースの守護神アロルディス・チャプマンが、まさかの不振に陥り、地元ニューヨークで騒動になった。昨季まで5年連続で33セーブ以上、90奪三振以上をマークし、メジャー最速の球速105マイル(約169キロ)の記録を持つ屈指の抑え投手に一体何があったのか。

 騒ぎがピークに達したのは後半開幕戦の7月14日、敵地でのレッドソックス戦だった。1点リードの9回に登板したチャプマンは、先頭打者から2連打、さらに重盗され、内野手の失策で同点、さらに敬遠四球の後に押し出しサヨナラ四球を出し、1アウトも取れないままセーブ失敗、敗戦投手となった。今季は開幕から順調にセーブを重ねてきたが、5月7日のカブス戦で1回もたずに3失点で今季初セーブ失敗を記録してからは、崩れる試合が増え、極め付きがこのレッドソックス戦だった。

 試合後と翌日試合前のジラルディ監督会見では、守護神の不振について質問が集中した。故障の懸念はないのかとの質問も出たが、同監督は「体の状態は大丈夫なのか本人には聞いた。投手の体の状態が悪いときは大抵、球速が落ちるものだが、そうはなっていないので」と否定。実際、崩れたレッドソックス戦でも最速102マイル(約164キロ)を出していた。

 ロスチャイルド投手コーチもヤンキース番記者に囲まれ、チャプマンの不振の原因について質問攻めを受けていた。「制球が以前のようにできていない部分が多少ある。昨年よりも制球が安定していない」というのが同コーチの答えだったが、それ以上の要因は誰も指摘しておらず「謎の不振」とされている。田中将大投手が4月から5連勝した後、突然大不振に陥り6連敗したときと、騒がれ方や周囲の受け止め方が非常に似た状況だ。「制球が安定しない」というのも、まさに不振中の田中が言われていたことだ。

 そこで気になるのは、今季メジャー球界で騒がれている「ボールが変わった」論争だ。昨年よりも飛ぶようになったともいわれているが、縫い目が低くなった、ボールが硬くなったと指摘する投手が多く、これまで一度も手にマメができたことのないにもかかわらずマメができる投手も続出している。

 もし本当にボールが変わったのであれば、制球が安定しないことも説明がつくのかもしれないと思う。だが大リーグ機構はボールが変わったことを完全に否定しており、投手個人がボールの違いを指摘するものの球団が公にその点に触れることもなく、謎の不振も謎のまま、誰もはっきりとした答えを出せないままだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)