今季はメジャーリーグで新しいトレンドが生まれたシーズンだった。一定の角度をつけて打球を上げると本塁打になる確率が最も高いというデータに基づいて多くの打者が打球を打ち上げる意識を強めた「フライボール革命」もその1つ。ピッチングに関していえば、速球の平均球速が上がる一方でストレート系を捨てた投球が流行し始めた。

 例えば、22連勝という歴史的連勝記録を作ったインディアンスで今季大きく成長した26歳の右腕トレバー・バウアーは、自ら「自分のベスト・ピッチ」と呼ぶカーブを昨年までの15%前後から、今季は約30%に増やしている。今季球宴に初選出されたアストロズの右腕ランス・マクラーズも投球の約半分はカーブで、今年5月のスポーツ・イラストレイテッド誌の記事で「自分にとってカーブはアグレッシブな球。オフスピードピッチと呼ばれるが、自分はそうとらえてはいない」と話していた。

 同誌の7月の記事によると、メジャーで最も速球の割合が少なく変化球を多く投げているのはヤンキースの投手陣だという。速球の平均球速がメジャーで最も速いのもヤンキースだが、それでも変化球の割合が他球団と比較してかなり多い。

 田中将大投手の配球をみても、それは明らかだ。日米通算150勝目を挙げた9月14日オリオールズ戦の投球分析データによると、速球系(フォーシームとツーシーム)が22・5%、変化球で最も多かったのがスライダーで39・2%だった。田中の変化球レパートリーはスライダー、スプリット、カーブ、カットだが、スライダーもスプリットも球速の速いものと遅いもの2種類があり、遅いスプリットは自ら「スプリット・チェンジ」と呼んで投げ分けている。投げ分けの仕方は自分自身の意思によるもので、例えば捕手からのサインはスプリットもスライダーもそれぞれ1種類しかなく、投げ分けは「気持ちです。自分がどう曲げたいかですよね。速いスピードで曲げたいのか、遅めでちょっとドローンとした感じで曲げたいのかっていう違いですね。本当に気持ちです。冗談抜きで」という。これだけ変化球の種類が多いと、投げる割合が増えるのも必然ともいえる。

 このような変化球主体の投球は、昨今の「フライボール革命」の対抗策として機能しているようだ。先日、バウアーがホワイトソックス戦で登板した際、アビサイル・ガルシアに対して初球にスライダーでストライク、2球目に97マイル(約156キロ)の速球でファウル、3球目にカーブで空振りと3球三振にしたのだが、初球の後にガルシアが「速球投げろよ」とバウアーにけんかを売り、言い合いになる騒動も起きている。打者にしてみれば、速球のカウントで速球がくるのは当たり前のことだっただけに、そこで変化球がくると戸惑いも相当なもの。今季のメジャーの新しいトレンドは、打者と投手の激しいせめぎ合いが生んだものといえるだろう。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)