マーリンズのイチロー外野手(41)が、メジャー通算2874本目の安打を放ち、ベーブ・ルースを抜き去り、単独で歴代42位(5月22日時点)となりました。ルースといえば、言わずと知れた大リーグ初期を代表する本塁打王で、1974年にハンク・アーロンに抜かれるまで、長い間、最多本塁打記録保持者でした。そんなルースの記録を超えたイチローは「伝記に出てくるような人だから」と、何ともピンとこない気持ちを表現しました。

 確かに、イチローが言う通り、幼い頃、メジャーリーグどころか、野球に興味がなくても、伝記を読むことで、初めてベーブ・ルースの名前を知った人も多いのではないでしょうか。わんぱくでケンカに明け暮れていたルース少年が野球を通して有名になり、本塁打王となった後には、病床の少年ファンとホームランの約束を交わす…。そんなストーリーを元に、ルースのイメージが出来上がっているような気がします。

 実際、過去に刊行された、少年少女向けの「世界伝記全集」のような書籍には、ワシントン、エジソン、ヘレン・ケラー、キュリー夫人らに加え、ベーブ・ルースの名前が入っているものが多くあります。もちろん、その人選は各出版社によって異なりますが、いずれにしても、ベーブ・ルースが「伝記に出てくるような人」であることは間違いありません。ちなみに、少年時代のイチローが読んだ伝記は「宮本武蔵とか、夏目漱石」だそうで、ベーブ・ルースを読んだ経験があるかどうかは定かではありません。

 イチロー自身、ルースのことを人ごとのように言っていますが、将来的には、イチローの生涯も「伝記」になる可能性は、かなり高いと思われます。

 未来の野球界では、イチローの記録がクローズアップされるたびに、ひょっとしたら「伝記に出てくるような人」と、言われるようになるのかもしれません。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)