周囲を納得させる決着の付け方でした。

 ヤンキースのA・ロドリゲスが6月19日に放った通算3000安打となる本塁打の記念ボールが、7月3日の試合前、本人の手元に戻ってきました。右翼席で打球をキャッチしたザック・ハンプルさん(37)が、ヤンキース側と話し合いを重ねた結果、ロドリゲスへの返還と引き換えに、ハンプルさんが携わっている慈善団体「Pitch for Baseball」へヤ軍が15万ドル(約1800万円)を寄付することになりました。

 ヤンキースタジアムの右翼席の年間予約席を持つハンプルさんは、知る人ぞ知る「筋金入り」の野球ファンで、これまでに全米中だけでなく、公式戦が行われた東京ドームやオーストラリアを含む51球場で試合を観戦。ボンズ、ジーターら32個の本塁打ボールをはじめ8000個ものボールを所有するコレクターでした。スタンドでは、打球をただ待つだけでなく、投手、打者の傾向やデータ、風向きなどを考慮し、落下地点を予想して動き回るというのですから、ただ者ではありません。

 その一方で、記念ボールをキャッチした後は、オークションで高額落札が確実視されることもあり、周囲からの中傷などに悩まされていたそうです。もっとも、「ファンとして野球が好きなだけで、売ることなんて考えていなかった」とのことで、ヤンキース側からのチャリティーの打診を快諾することになったわけです。「こういう形を整えてくれたヤンキースに感謝したい」。ロドリゲスからお礼のユニホーム、バットなどを受け取ったハンプルさんは、誇らしげでもあり、またホッとしたようでもありました。

 記録達成に伴う総額600万ドル(約7億2000万円)のボーナスの支払い問題でもめていたヤンキース側とロドリゲスにとって、まさに名案でした。5月1日に放った史上4位となる通算660号の特別報酬にも、350万ドルのチャリティーにすることで決着。ロドリゲスは「すべてが正しい方向へ向かった」と、こちらもホッとした表情を浮かべました。

 結果的に、ヤンキースにとっても、ロドリゲスにとっても、金銭闘争でイメージダウンするどころか、イメージアップにつながる着地でした。いわゆる「Win-Win」な関係となったわけですが、ヤンキースは、ぜいたく税分を含めると5億円以上の支出削減に成功したとも言われています。確かに、チャリティーはすばらしいことですが、その裏に少しばかり政治的な匂いを感じてしまうのは、気のせいでしょうか。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)