もはや、冗談には聞こえなくなってしまいました。

「まあ良くも悪くも、歴史に名前を残したいじゃないですか」。

カブスのダルビッシュ有投手(32)が21日のメッツ戦で6回4失点と踏ん張りながら、またしても勝敗が付かないまま、試合を終えました。これで4月27日のダイヤモンドバックス戦で2勝目を挙げて以来、10試合連続で勝敗が付かない先発となりました。カブスの球団記録を更新し、さらに1977年のランディ・ラーチ(フィリーズ)以来、42年ぶりの珍記録に並んでしまいました。

現時点で、歴代の最長記録に関しての資料は発表されていませんが、「歴史に名前を残したい」のフレーズは、ダルビッシュがのぞかせた、記録更新への意欲の一端? でした。

「もちろん勝ちを目指して投げますけど、僕がノーデシジョン(勝敗なし)でチームが勝てばいいでしょう」。

その前回登板となった15日のドジャース戦で9戦連続となった際は、まだ自虐ネタのレベルでした。

「もう順調…だと、思いますよ」。

苦笑するかのようにこぼしたのも、もちろんジョーク交じりだったからでしょう。

ところが、2ケタの大台に乗ったことで、ひょっとすると、「ここまで来たら…」の感覚になったのかもしれません。この間、3試合でクオリティースタート(6回以上、自責3以内=防御率4点以下)をクリアした一方で、リードされても打線が同点に追い付き、黒星が消えたケースもあります。ただ、同点で交代した試合も含め、先発投手に10試合連続で勝敗が付かないことなど、めったにあることではありません。

「勝利だけじゃなくて、負けもしないというのが、すごい。何のためにいるのかという感じじゃないですか。10試合投げて、何もないんですよ。0勝0敗ですよ。何もやっていないような感じがして…。とにかく今は自分の状態を上げること。でも状態がいいから改善点がないというのがあったし、いいところはいっぱいあったと思います」。

確かに、投手の分業制が細分化され、故障防止を目的とした球数制限、3巡目で披打率が上昇するというデータ重視などの側面からも、メジャー全体で先発投手の早期交代は浸透しています。つまり、勝敗のポイントが終盤の継投に左右される試合が多く、先発投手に勝敗が付きにくい傾向があるのも事実です。

ダルビッシュの場合、16先発中(6月24日現在)、11試合と抜きんでていますが、マリナーズ菊池にしても17試合で8試合、ヤンキース田中は16試合で6試合と、「勝敗なし」は決して少なくありません。

かつて先発投手の評価といえば勝ち星でしたし、その感覚は、今でも残っています。ただ、「飛ぶボール」「極端過ぎる守備シフト」など、投手受難時代を迎えた近年の野球はそれだけでは計れません。実際、2010年には、フィリックス・ヘルナンデス(マリナーズ)が、13勝12敗と勝ち星にこそ恵まれないながらも、249回2/3を投げ、防御率2・27の成績を残したことで、サイ・ヤング賞に選出されました。

昨今のメジャーで、勝利数以上に、投球回数やクオリティースタートという独特の評価基準が定着しているのも、ある意味で当然なのかもしれません。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)