メジャー挑戦へ、準備着々だ。ポスティングシステムを使って大リーグ球団と交渉中の楽天田中将大投手(25)が18日、コボスタ宮城の室内練習場で練習した。前日に関東での自主トレを終え仙台に戻ったばかりだが、休むことなく動いた。ブルペンにも入り、大リーグ球で30球。日本の公式球よりも沈むツーシームを披露した。交渉期限(日本時間25日午前7時)まで1週間を切った。移籍先は未定だが、準備は怠らない。

 ウオーミングアップとキャッチボールを終えると、田中はスッとブルペンに向かった。手にしたのは、もちろん、大リーグの使用球。軽めの力で淡々と投げ続けた。計30球。受け手の長坂ブルペン捕手は立ったままだったが、直球以外にも、スライダー、カーブ、スプリット、ツーシーム、カットと、チェンジアップを除く持ち球を数球ずつ織り交ぜた。

 注目は、ツーシームだ。長坂ブルペン捕手は「目いっぱいの力で投げてからの話だとは思いますが、ツーシームは、多少、沈む感じがありました。去年のWBC球でもそう。日本の球だと、横に動くだけでしたね」と証言した。打者の手元で動く球が主流のメジャー。その球を使って、これまでよりも動かした。移籍先は未定でも、メジャーへの“適性”をうかがわせた。

 もっとも、田中本人は、ほぼ沈黙を守った。ブルペン投球は、既に関東での自主トレでも行っており、「何度か入っています。(感触は)普通です」と表情を変えずに答えた。それだけ言い残すと、ウエートルームのある奥の方へと消えた。球場の去り際には、自家用車に乗り込むと、報道陣に向かって両手で「×」のポーズ。「しゃべれません」と言いたげだった。シーズン中は、質問には立ち止まって答えることが多い。ポスティングシステムによる移籍交渉が大詰めを迎えており、自身の発言が影響を与える恐れはある。

 それでも、存在だけで室内練習場の空気を変えた。午前10時過ぎに現れた時、松井裕ら新人9選手がアップ中だった。すぐに気がついた新人たちは、遠くから田中の方をチラチラ。アップを終えると、全員が走り寄り、握手してもらった。ブルペン入りの時間が重なり、たまたま田中の隣で投げることになったドラフト8位の相沢は「軽く投げていたのに速い。びびりました」。2つ隣だった同5位西宮も「軽く投げても直球の回転がすごい。シューッという音が聞こえてきました」と舌を巻いた。

 どんなに遅くても、1週間以内には移籍先が決まる。多くは語らずとも、存在感は相変わらずだったマー君。大リーガーとなるその時へ、準備を進める。【古川真弥】

 ◆田中とWBC球

 WBC出場を控えた昨春キャンプでは、WBC球で練習を続けた。統一球より滑るとされるが、実際に投げてみて「ボールに合わせた投げ方を意識しないといけない。自信のないボールは投げない」と、持ち球の中では精度の低いカーブを、いったんは封印した。大会では4試合で計7回3失点と打たれ、視察したメジャーのスカウトから「そんなにWBC球は難しいのか」と疑問の声が上がった。