鮮やかな一撃だった。広島新井貴浩内野手(38)が復帰後初安打となる2点適時打を放った。5回2死二、三塁で代打で登場。大歓声に、三遊間を突破する2点適時打で応えた。1点差に迫った適時打は、勝負強い新井の真骨頂だ。積み重ねた経験で、緒方カープを引っ張っていく。

 「九里に変わりまして新井-」。3点を追う5回2死二、三塁。場内アナウンスが流れると、横浜スタジアムのボルテージは一瞬で沸点に達した。右が青、左が赤の鮮やかなコントラスト。響き渡る大歓声を全身に受け、新井はゆっくりと打席に立った。8年ぶりに復活した応援歌に乗せて、スクワット応援がリズムを作る。新井の集中力もピークに達した。

 新井 打ったのは直球。追い込まれていましたが、絶対にランナーをかえそうと必死にいきました。

 カウントは2-2。外角低めの直球だった。大歓声に打球音はかき消され、鋭く、地をはう打球が三遊間を割った。三塁走者はもちろん、二塁走者も生還した。今季2打席目で、復帰後初安打、初打点を記録した。1点差に迫る2点適時打。だが一塁上で肘当てを外す新井の表情が変わることは、最後までなかった。新井は、勝負の世界にいた。

 「長きにわたり、大変お世話になりました。タイガースでの日々は貴重な経験となりました」

 復帰が決まった直後の11月20日。兵庫・西宮にある阪神の球団事務所に手紙が届いた。球団職員1人1人に感謝の思いを込め、直筆でしたためられていた。阪神からは今オフ、野球協約に定められた上限を超える減俸を提示され、自由契約を望んだ。だがそこにあったのは「もう1度勝負したい」という気持ちだけ。あとは「感謝」だけだった。

 当初は賛否両論あった広島復帰も、今では文句の声を上げる者はどこにもない。それどころか、その日一番の大歓声で迎えられる。生き様を背中で表現し、結果で信頼を勝ち取ってきたのだ。背番号28は緒方カープになくてはならないピースとなった。それを知らしめる一打だった。【池本泰尚】