「おとこ気」が、ほとばしった。広島の黒田博樹投手(40)が、阪神戦に先発し、6回3失点でハーラートップタイの3勝目を手にした。同点の2回1死一塁、バントの構えだった打席で、藤浪からあわや死球の内角球を続けられて激高。両軍ベンチがにらみあう乱闘寸前に。黒田の闘志がナインに火をつけ、今季初の2ケタ11得点の大勝となった。

 球場の雰囲気が変わった。同点に追いつかれた直後の2回裏。1死一塁で打席には黒田。バントの構えに、阪神藤浪は1ボールから内角の厳しい球を投じた。体をのけ反らせてよけると、続く3球目はより厳しいコースへ。よけなければ体を直撃していた。

 「さすがに2球続いたからね。チームの士気にも関わる。自分の体は自分で守らないといけない。戦う姿勢というのも見せたかった」

 体を反転させ尻もちをついた。立ち上がると、バットを右手に、怒鳴りながらマウンドへ近づいた。ベンチから両軍が飛び出し、一触即発。あわや乱闘の緊迫した場面から流れは変わった。捕逸で進塁し1死二塁で再開後、黒田はバスターで一ゴロの進塁打。1番田中の一ゴロが敵失を誘い勝ち越すと、「おとこ気」が乗り移った打線は6回までに今季最多11点を奪った。

 この日、立ち上がりから本来の投球とほど遠い内容だった。キレ、制球ともに悪く、1回だけで32球。2回まで52球を要した。「全て(悪くて)しんどかった。点差があってリズムに乗りかけたけど、今日はどうにもならなかった」。投球の間隔を意図的に空け、左右の球種ではなくスプリットを軸にした。前回3打数2安打の福留には、スプリットを多投し無安打に封じた。伊藤隼に2ランを浴びたが、6回3失点でしのいだ。

 物静かな男だが、マウンドでは戦士だ。メジャーでも大男たちにひるんだことはない。畝投手コーチは「やられたらやり返すタイプ。いい効果になったんじゃないか」と2回の打席がターニングポイントとなったと振り返る。

 ただ、この日は藤浪を、次代を担う逸材と見込んでいるからでもあった。「お互いバントをさせたくないという気持ちは分かる。年齢関係なく戦っている。それはグラウンド上で起こったこと」。試合が終われば引きずらない。だが、チームを奮い立たせた「おとこ気」は、選手たちの心を確かに揺さぶった。鯉の季節を前に、最下位からの反攻が始まろうとしている。【前原淳】

 ◆メジャーでの黒田激高 ヤンキース時代の13年5月12日、ロイヤルズ戦。真ん中低めをボールと判定された。球審に不満のポーズを見せ、降板する際に審判に嫌みを言われると思わず怒りをあらわにした。「あの展開で、あのタイミングで『その1球だけだろ』みたいなことを言われるとね。その1球を投げるためにたくさんの調整をして、いろいろなデータを取って投げているので、それを軽く言われるっていうのは、ちょっと」と、悔しさを口にした。ドジャース時代の08年10月12日、リーグ優勝決定シリーズ第3戦では、ド軍捕手マーティンが死球を受けた後、フィリーズ・ビクトリノの頭部付近に投球。「頭はやめろ」とアピールするビクトリノに、関西弁で言い返し、両軍選手が飛び出して一触即発に。「僕もマウンドに上がるとエキサイトしますから」と言った。後日、大リーグ機構から7500ドル(約75万円=当時)の罰金を科せられた。