涙、涙の男気(おとこぎ)優勝だ。今春1部復帰した広島黒田博樹投手(40)の母校専大が、1-0で拓大を破り、89年春以来、52季ぶり32度目の優勝を飾った。1部に昇格したシーズンでの優勝は、69年春の日大以来46年ぶり2校目。2番手で登板した大野亨輔投手(4年=星稜)が、4回2/3無失点で今季4勝目を挙げ、3投手の継投で守り切った。大学日本一を懸けて全日本大学野球選手権(6月8日開幕、神宮)に出場する。

 26年ぶりの優勝まで、あと1人。9回2死、背番号「21」の中川龍斗内野手(4年=佼成学園)が、ベンチから遊撃のポジションに走った。「野球が大好きな人だったので、絶対見てくれていると思います」。

 中川の父浩一さんは、15日に亡くなった。54歳だった。くも膜下出血で、1年前から入院。告別式だった前日19日は、葬儀場から神宮に駆け付けた。到着したのは4回。仲間はベンチにユニホームを掲げて戦ってくれた。ウイニングボールを受け取った。前夜のミーティングでは、就任2年目の斎藤正直監督(55)が「明日は中川のおやじのためにも勝つぞ」と言った。

 1回に1点を先制した。3人の投手が、必死の継投で1点を守った。そして9回2死、出番がやってきた。「もう何も考えられなかったです」。自らの失策で2死一塁としたが、二盗を狙った走者に対して、捕手からのショートバウンド送球を中川が好捕。“ウイニングボール”を握った。

 1点差のしびれる展開で、男気采配。斎藤監督は「浪花節ではいけないんでしょうけど。結果的に、スチールのボールを捕ってくれた」と目を潤ませた。

 戦国東都最多32度目の優勝だが、栄冠から26年遠ざかった。1部復帰した今春、緑ベースのユニホームの帽子とストッキングに黄色を入れ、大リーグ・アスレチックススタイルに変更。斎藤監督は「どうせ古豪。新生専修大学として頑張ろう」と改革に乗り出した。

 「専大8種」と呼ぶトレーニングを導入し、打ち勝つ野球を目指した。帽子の「u」はアップステアーズ(駆け上がれ)の意味を込めた。破壊と創造でつかんだ頂点。厳しい勝負を勝ち切るために、人を思う心で団結した。【前田祐輔】