浜風を切り裂く弾道が逆転への号砲だった。1点を追う6回、阪神福留孝介外野手(38)は勝負をかけた。ヤクルト先発新垣に対し、初球からすべて変化球で追い込まれた。そして5球目。内角高めにきたストレートを振り抜くと、打球はライナーで右翼スタンドへ。9号同点弾。逆風をものともしない、この一撃が劣勢の流れを変えた。

 「そんなことないよ。きょうは狩野くんが打ったことが一番です」

 試合後、福留はあえて素っ気なく振る舞っているようだった。いつ来るとも知れない出番に向けて、準備を怠らない後輩狩野にスポットライトを浴びてほしかったのだろう。

 ただ、ここぞの勝負勘はさえ渡っている。変化球をうまく使った新垣の投球に立ち上がりから封じられていたが、6イニング目、球数も100球に達する、勝負どころで狙いを定めていた。変化球攻めに遭いながらも、最後にきた速球を一撃で打ち抜く集中力を見せた。

 「(追い込まれても)いつもと変わらなかったよ」

 何かを捨てなければ、何かを得ることはできない-。日々、勝負に生きる福留にはそんな覚悟がある。サヨナラの場面、大チャンスの場面、狙いを定めてフルスイングできる心理をこう表現する。

 「変化球がきたら、ごめんなさい。打てなくても死ぬわけではない。それくらいの割り切りがないと打てないよ」

 打率2割6分、9本塁打はチームトップ。34打点もゴメスに次ぐ。何より、その勝負強さが猛虎打線に欠かせない。

 「父の日」となった日曜日、グラウンドで大喝采を浴びた後、パパは家路を急ぐ。愛する家族が待っている。今年完成した新居には家族全員の手形を押した、こだわりの“モニュメント”があるという。勝負の鬼は車を走らせながら、素顔に戻っていく。【鈴木忠平】