一丸ヤクルトがついに、4月29日以来の首位に返り咲いた。若きスラッガー山田哲人内野手(22)が2本塁打の活躍で打線をけん引した。開幕直後に首位を走りながら、5月にはわずか11日間で最下位まで転落。そこからはい上がった。館山昌平投手(34)の復帰登板からムードが好転し、これで4連勝。勝率5割に復帰し、勝利数の差で同率の阪神をかわした。

 豪快なとどめの1発が、神宮球場の左翼ポール際に突き刺さった。「狙ったのか?」と聞かれた山田は「空振りでもいいと思って思い切りいきました。(狙ったと狙ってないの)中間ですかね」と、独特の言い回し。だが、豪快なフルスイングには、追加点を奪って仲間に楽をさせたい気持ちが、強くこもっていた。

 この日の1本目を打った5回、山田が先頭打者で打席に向かう時、ベンチ前では円陣が組まれていた。3点リードの場面。三木作戦コーチが切り出した。「今日はリリーフを休ませよう。もっといくぞ」。このひと言で打線に火が付いた。負担をかけていたロマン、オンドルセク、バーネットに休養を与えようと、ギアを1段も2段も上げ、最後まで手を緩めず10点を奪った。

 山田にとっては理想的な一致団結ぶりだった。不振に悩んでいた5月上旬、遠征先の秋田でのことだ。試合を翌日に控えた練習日、真中満監督(44)から打撃ケージの後ろで呼び止められた。かけられたのは「1人で背負い込もうとしすぎるな」という温かい言葉。吹っ切れるものがあった。気持ちの変化は打撃の結果に直結した。2割5分前後だった打率は急上昇した。「1人でやってるんじゃないって気付かされました」。今や完全復活で、チームを首位へ返り咲かせる立役者となった。

 6月28日には、2年ぶりに1軍登板した館山への気持ちで、チームが1つになった。あの時、逆転本塁打を放ったのも山田だった。そしてこの日は、助っ人3人のために一丸となった。1人でやっているのではないという思いが、山田を強くする。残りは半分を切り68試合。「ここからが勝負だと思う。気を引き締めて1戦ずつやっていきたい」。頼もしいけん引役は、首位に立っても、気を緩めなかった。【竹内智信】