高校野球の夏に佑ちゃんが帰ってきた。日本ハム斎藤佑樹投手(27)が4月17日同戦以来、113日ぶりに先発した。2回に先制され、4回にペーニャにソロ本塁打を浴び、5回5安打2失点で降板。6回に味方が追いつき、勝ち負けはつかなかった。甲子園では早実が初戦を突破。母校とのダブル白星はならなかったが、粘りの投球でチームの勝利に貢献し、復活への足がかりを築いた。

 運命的な1日に、進化の扉を開いた。斎藤が、奮闘の証しを刻んだ。「気持ちはだいぶ違いました」。中継ぎ転向を経て、心機一転で臨んだ舞台。今季初勝利を懸けて4月17日楽天戦ぶりに先発した。

 原点が、よみがえった。この日は母校・早実(西東京)が、夏の甲子園1回戦を迎えた。今治西(愛媛)を相手に完封勝利。幸先よくスタートした後輩に刺激を受けた。「勝った瞬間はプレッシャーを感じました。勢いに乗って勝てれば」。9年前の06年決勝、延長再試合で駒大苫小牧・田中(現ヤンキース)と投げ合い、優勝に導いた。この日の試合前にはグラウンドで、駒大苫小牧のブラスバンドが音色を奏でた。栄光の夏。1軍に舞い戻った。

 マウンドに覚悟が映えた。強気に内角を攻め、中継ぎで培ったフォークを生かした。傾きかけた流れを渡さなかった。1点ビハインドの5回2失点で降板。打線が6回に追いつき、黒星は消えた。1点差での降板は、延長サヨナラ勝利につながる粘投となって実った。栗山監督は「自分らしさを見つけないといけないシーズン。大きなヒントを見つけたと思う」と今後につながる1歩を喜んだ。

 静かで、温かいエールを受け、歩み続けた。今年の元日。群馬の実家に帰京し、勝負のシーズンへ英気を養った。夕食は大好物の祖母の手打ちそばを堪能。斎藤家では家族だんらんの場では、野球の話をしないのが暗黙のルールだった。母しづ子さん(53)から、ひと言。プロ野球選手としてエールを受けた。「マウンドで、いい笑顔が見たいよ」。

 勝利の笑顔はかなわなかった。それでも、次回も1軍登板するチャンスをつかんだ。この日はチームの勝利に笑みを浮かべた。「僅差に持ち込めたことがうれしい」。仲間と分かち合う勝利の喜びを、知っている。佑ちゃんの、新たな夏が始まった。【田中彩友美】

 ◆斎藤と甲子園 早実3年の06年春、夏の2度出場。春は初戦の北海道栄戦で4安打完封。2回戦の関西戦(岡山)は延長再試合の末、勝利。準々決勝で横浜に敗れた。夏は1回戦から快進撃を続け、決勝は3連覇を狙う駒大苫小牧と対戦。延長15回1-1で決着せず、再試合を4-3で制し、同校を初優勝に導いた。斎藤は全7試合に先発した。