楽天のドラフト1位ルーキー安楽智大投手(18)がデビュー戦で初登板初勝利を記録した。初回から最速146キロの直球を主体に6回2安打無失点の好投。味方の大量援護もあり白星をつかんだ。自身は1年目の勝利が「20年活躍する選手」になるための必要条件と定めており、最後の最後に実現した。高卒新人の初登板初勝利は田中(現ヤンキース)や松井裕もしておらず、球団史上初の快挙だ。

 6点差の9回。安楽は冷え込み始めた仙台で、勝利を確信してベンチで顔を上気させていた。「9回2アウトになって、少しホッとしていました」。試合終了とともに勝ち星がつくと、自然と笑みがこぼれた。

 堂々の投球だった。「小山さんからドラ1のプライドがあるだろ。お前らしくやってこいと言われた」と最速146キロの直球を主体に攻めた。6回2死からソフトバンク松田を直球で押し込み、最後は130キロのフォークで空振り三振に仕留めるとほえた。

 持論があった。名投手は必ず入団1年目に勝ち星を挙げる。「田中さんだったり、ダルビッシュさんだったり、日本を代表する投手は必ず1年目に1軍に上がって、勝っている。僕はそこにこだわりたい」と思いを口にし続けた。生涯の目標である「20年間活躍する投手」になるためにと自ら課したハードル。9月23日のイースタン・リーグ西武戦で9回無失点の好投を見せると、1軍昇格の切符をつかんだ。だが相手はパ・リーグ王者のソフトバンクに決まり「強力打線なんで打たれてもともとと開き直れます。でも、できれば勝ちたい」。謙遜する言葉の中に覚悟がにじんだ。

 過程は平たんではなかった。高校2年秋に発症した右肘尺骨神経まひの影響でフォームが崩れた。2軍では酒井2軍監督、杉山投手コーチから高校2年の投げ方に戻すことを勧められた。「助言を全て聞いていていいのだろうか」。悩んだ。そのうちにライバルと目する西武高橋光、巨人岡本は1軍で活躍し始めた。「同級生がいいカッコしているのに、追いつけない」。腹を決めた。投球始動時にグラブを胸からベルトの前に置き、テークバックの際にやりなげ選手のように左手のグラブを突き上げる形にした。「球速はでないけど、直球の感覚は戻ってきました」と自信をつけた。

 ヤンキース田中ですらなしえなかった高卒新人初登板初勝利をつかんだが「1試合だけ勝っただけでは意味がない。来年こそ開幕1軍を手にしたい」と引き締めた。【島根純】

 ◆安楽智大(あんらく・ともひろ)1996年(平8)11月4日、愛媛・松山市生まれ。父の転勤で高知に引っ越し、高須小2年から軟式野球チーム「高須ザイオン」で投手として野球を始める。松山に戻り、道後小3年から「東雲イーグルス」、道後中では「松山クラブボーイズ」に所属した。済美では1年秋から背番号1で高校2年時に最速157キロを記録。186センチ、87キロ。右投げ左打ち。

 ▼安楽が初登板を白星で飾った。ドラフト制後、高卒新人の初登板初勝利は12年武田(ソフトバンク)以来18人目。楽天で高卒1年目に登板したのは8人目だが、初登板初勝利は安楽が初めてだ。ソフトバンクは今季の優勝チーム。デビュー戦で勝利した18人のうち、「首位」チームが相手だったのは66年森安(東映)87年近藤(中日)99年松坂(西武)と安楽の4人だけ。