呪縛から解き放たれた。ヤクルトのウラディミール・バレンティン外野手(31)が3安打2打点の活躍で、チームを勝利に導いた。6回1死満塁で、2点適時打を放ち、難敵の巨人マイコラスをKOした。これでアドバンテージを合わせて2勝1敗。バレンティンの復調とともに、チームのムードも上昇。一気の勝ち抜けを狙う。

 一塁に到達したバレンティンがほえた。6回、球場の大歓声に乗せられた。「みんなが喜んでくれてたから興奮しちゃいました」。1死満塁から、勝負を決める中前2点適時打。追い込まれてからは左足を上げず、コンパクトに打ち返した。シーズン60発の記録を持つホームランキングが、チームのために軽打を選んだ。「無意識だった」と言いながらも、貪欲に勝利を追った姿にファンも沸いた。

 第1戦は、気持ちが空回りした。試合前練習では良かったにもかかわらず、試合ではそれを出せなかった。打ちたい気持ちが強すぎてボール球を追いかけた。ぶざまな空振りを繰り返し、杉村打撃コーチから「ブレーキだった」とまで言われた。試合後、クラブハウスに来ていたカーラ夫人と長女ミアちゃんを忘れて、タクシーで先に帰宅してしまった。巨人の長嶋茂雄終身名誉監督が現役時代、幼かった一茂氏を球場に忘れた話は有名だが、同じように置いて帰った。考えすぎるくらい野球のことを真剣に考えていた証しだった。

 この日の試合前練習の後、宮出打撃コーチに呼び止められた。「相手はお前のことを怖がっている。甘い球なんて来ない。ボール球をいかに我慢できるかだ。我慢すれば打てる球が必ず来る」。そう声をかけられたおかげで、第1戦とは違う心理状態で、試合に臨めた。マイコラスは今季唯一の本塁打を打った投手。チームは勝てていなかったが、いい印象があった。5番から6番に変わった打順も「勝利に貢献できるならどこでもいい」と気にしなかった。

 1本、2本、3本。「打つことによって次の打席にいく自信になった。重要な仕事ができて良かった。大きいのは狙わずに、冷静に自分の打てる球を打った」と胸を張った。そしてさらに、続けた。「でも、自分では満足していない。理想と比べたらまだまだ。修正が必要だと思っている」。求めるのは、キングらしい姿だ。次こそは豪快な本塁打で勝利をつかむ。そのために帰ってきた。「最善を尽くしたい」と誓った。【竹内智信】