小笠原劇場が始まった。中日が1日、沖縄・北谷球場でキャンプインし、ドラフト1位小笠原慎之介投手(18=東海大相模)は仰天の初日だった。5キロ走で投手陣最下位になり、プールトレーニングでは泳げないことが発覚。昨秋に故障した左肘の不安でブルペン投球も控えている。三重苦のドラ1左腕だが、キャッチボールで谷繁監督をうならせた。

 見る者全てを仰天させた。午後に行われた長距離走。5キロ走で投手陣最下位。しかも、競ってではない。雨が降り、強風が吹く中で、みるみるうちに遅れてのゴール。「ぶっちぎり(の最下位)でしたね。頑張りたいです、はい…」と苦笑いするしかなかった。

 もともと、長距離走は苦手で、ある意味、この結果は想定内? しかし、これで終わっては劇場と言えない。北谷球場で練習メニューを終えると、プールトレーニングに移動。勝崎チーフトレーニングコーチが「小笠原、泳げないらしいよ!」と明かし、新たな苦手が発覚した。ビート板を使って行うメニューでは難なくクリアしていったが、ビート板を外した瞬間にブクブクブク…。小笠原の体は沈んでいったという。おまけに昨秋にケガをした左肘の不安もあり、遠投とブルペン投球を行っていない。走れない、泳げない、ブルペンで投げられない。キャンプ初日、高卒ルーキーに何重もの壁が立ちふさがった。

 だが、本当に驚いたのは、谷繁監督のようだ。朝の室内練習場でのキャッチボール。史上最多3021試合出場を誇る指揮官が、驚嘆の声を上げた。小笠原が1球1球を投じる姿に「高校生でああいうバランスのいいフォームは見たことない。いいなあと思って見ていた。見るだけで分かるぐらい」とうなった。さらに「彼が受けてほしいというからミットも用意している」。27年の現役生活で数々の球を受け、右手より左手の方が大きな谷繁監督が、うずうずしている様子。昨夏の甲子園優勝投手の投じる球は一級品だった。

 異例の1軍キャンプ参加は期待の表れでもある。中日はキャンプインの2月1日にブルペン投球を行うことが慣例。この日、北谷組の日本人投手では小笠原だけがブルペン入りしなかったが、1軍で過ごすことに意味がある。指揮官は「早くプロの雰囲気というか、水に慣れてもらう必要がある」。戦力として計算される大器だからこその発言だ。

 小笠原は「1日1日成長できる練習をしていきたい」。次は何で驚かす? 本格的な投球を再開したとき、さらなる驚きが待っているに違いない。【宮崎えり子】