奇跡の再現が陽炎(かげろう)となった。巨人は114試合目で、ついに自力優勝が消滅した。指揮官として初めて相手のマジック点灯を目にした高橋監督は「だからといって何か変えるわけではない。これまで通りの戦いをやっていく」と心情を悟らせなかった。

 エース菅野で勝てなかった。4回まで8奪三振。最速153キロで飛ばした。だが中盤から維持できなくなり、6回に投手の福井に二塁打を打たれたのを機に計4本の二塁打を含む集中打を浴びた。大一番で今季2番目に多い5失点は痛恨の極み。昨年9月27日のヤクルト戦も敗れ、マジック点灯を突きつけられた。2年連続の屈辱。高橋監督は開幕からの奮闘を認める一方で「(序盤の投球からは)想像していないが、エースがこういう形で打たれたのがすべて」と話した。

 球界の盟主は数々の奇跡を起こしてきた。11・5ゲーム差を覆した96年のメークドラマ、13ゲーム差を大逆転した08年のメークレジェンド。だが今の状況は比類できない。残り29試合で8ゲーム差。過去81年の球史をひもとく。30試合を切って8ゲーム差をはね返したのは、63年の西鉄が25試合からまくった、ただ1度しかない。

 高橋監督は約3週間前、自身の感覚を口にしていた。「残り30試合ぐらいから数え始める。意外と長く感じるものなんだよね。それほど切羽詰まった試合が多くなるからね。マジックがつくと『なかなか減らないな』と思うものだから」。もう残り29試合なのか、まだ残り29試合なのか。巨人のこれからの戦いざまが、意味合いを変えていく。【広重竜太郎】