広島黒田博樹投手(41)は、想像を絶する責任感でマウンドに上がっていた。全身全霊で登板に備え、チームの勝敗を一身に背負った。野球や投球を楽しむことなどなかった。肉体のみならず、精神的にも極限まで追い込んできた黒田の野球人生に迫った。

 黒田は常に重圧を背負って、投げてきた。広島でエースとなり、海を渡ってもドジャース、ヤンキースという米大リーグの名門で大黒柱となった。広島に帰ってきた2年間も主戦であり続けた。普段から「野球を楽しんだことがない」と言い続けた。その言葉に偽りはない。満身創痍(そうい)でも、登板に向けて全身全霊を注ぐ。広島の後輩選手に言わせれば「簡単に弱音が吐けないプレッシャー」を発していたという。その影響力、存在感がチーム力を押し上げ、優勝につながったとも言える。座右の銘は「耐雪梅花麗(たいせつばいかうるわし)」。梅の花は寒い冬を耐え忍ぶことで、春になれば一番麗しく咲くという意味の漢詩の一節。挫折から何度もはい上がってきた。

 7年プレーした米国でも、その考えがぶれることはなかった。「周りは楽しんでやっていると言っていた。だけど、僕は楽しんでやれない。人それぞれ野球観が違うのかなと。仕事とも受け止めていない。お客さんがお金を払って見に来てくれるわけなので、それに対して気を抜けない気持ちはある」。野球に真っすぐ、チームに真っすぐ。そしてファンにも真っすぐに向き合ってきた。

 ある日、ポツリと言った。「打者は4打数無安打でも、チャンスに打てなくても『負けバッター』ってないだろう。生まれ変われるなら、3番ショートがいいな」。チームの勝敗を一身に背負ってきた責任感がにじむ。ケガに打ち勝ちながら、積み重ねた日米通算3340回2/3の投球回は勲章の1つ。重圧からもうすぐ解放される。

 以前、ユニホームを脱いだ後の野球との関わりに「少年野球チームの監督がやりたい」と思いをはせていた。自然と結果がすべての世界から離れた自分の姿を求めていたのかもしれない。

 黒田には、最後に果たさなければいけない使命がある。最初で最後になる日本シリーズが集大成。すべての重圧から解き放たれるのは、再びチームメートと喜び合ってからだ。【前原淳】

 ◆耐雪梅花麗(雪に耐えて梅花麗し) 西郷隆盛が詠んだ漢詩の一節。梅の花は寒い冬を耐え忍ぶことで、春になれば一番麗しく咲く、という意味。ヤンキース時代には大切な言葉を紹介するミーティングでチームメートに披露。LINEの黒田スタンプの一部にも使用されている。