リベンジマッチに成功した。楽天岸孝之投手(32)が、ソフトバンク8回戦(ヤフオクドーム)に先発し、7回4安打1失点。無傷の3勝目を挙げた。ヤフオクドームは4月23日に腰痛のため試合直前に登板を回避した“因縁”の球場。嫌な思い出を快投で消し去った。

 ソーッとマウンドに上がった。岸は、足元にあるロジンバッグの位置を確認した。両膝を伸ばした状態でゆっくりと手に取り、右手になじませた。「今日は大丈夫でしょ。さすがにない」。心に言い聞かせ、初球140キロ直球を、内角高めに投じた。

 さすがに、頭をよぎった。4月23日、ソフトバンク戦に先発予定だった。だが、試合前のブルペンで“事件”は起きた。ロジンを取ろうと、しゃがんだ際に腰痛を発症。「全然大丈夫。投げられた」と軽症だったが、登板回避となった。代役として緊急先発した戸村が、6回途中4安打無失点で今季初勝利。福岡県内のホテルで試合を見ていた岸は、「本当にチームが勝ってくれて良かった。開幕前もインフルエンザで迷惑をかけていたし」と、並々ならぬ思いを持ってこの日に臨んだ。

 まさに“因縁”を払拭(ふっしょく)するための快投だった。「今日はコントロールが良かった。思ったところに投げられた」と本人も納得の直球が糸を引くように、嶋のミットに吸い込まれた。1点リードの4回1死から柳田。初球から2球連続で、外角低めに140キロ台の直球。見逃しで一気に追い込むと、最後は内角低めへ141キロ直球で空振り。全て直球の3球三振。「緊張感ある試合展開。何とか抑えることが出来て良かった」と圧倒的だった。梨田監督も「構えたところにボールが行く」と脱帽するしかなかった。

 7回4安打1失点で無傷の3勝目。試合後、報道陣から母の日の話題を振られると、「母の日は知っていましたけど、それよりも何とかチームが連敗しないようにとしか考えていなかった」と淡々と言った。それでも、仙台に住む母へ花を贈っていた心優しき男。母へ、ファンへ、そして自分自身へ、大きな1勝を挙げた。【栗田尚樹】