鳥谷の勇姿が猛虎打線に点火した。金本知憲監督(49)は鳥谷不在のオーダーで大不振の糸井嘉男外野手(35)を移籍後初の1番に置く大胆起用。糸井も男の意地で初回に29打席ぶり安打を放って好機を広げ、一挙4得点を導いた。2試合で1点しか奪えなかった打線が9安打6得点と奮起。復刻したブラックユニホームでも球団創設以来初めて、甲子園でのG倒を決めた。

 大歓声に包まれた白球がセンター前にはずんだ。初回だ。カウント1-1から糸井が、巨人大竹寛の144キロ内角球を振り抜いた。打球は詰まりながらも、青い芝生に落ちた。5月16日の中日戦で5号2ランを放って以来8試合ぶり。実に29打席ぶりとなるヒット。自己最長となる長く暗いトンネルをようやく抜けた。

 夕暮れの甲子園に聞き慣れないコールが鳴り響いた。「1番、センター糸井」。金本監督が「気分転換と言いますか、まっさらな打席で気分新たに」と、不振の3番糸井をトップに据える大胆な打順変更を敢行。オリックス時代の16年10月1日、楽天戦以来、阪神移籍後初の1番起用だった。「いろいろと考えてやってもらっているんだと思います」。指揮官の「リフレッシュ作戦」に、1打席目で応えた。

 糸井のヒットが号砲だった。続く2番上本の左中間を破るツーベースで、一塁走者糸井は激走。そして手をたたいて生還。わずか8球の先制劇だった。6番キャンベルにも来日初アーチとなる2ランが飛び出すなど、初回に4安打4得点で主導権を握った。前日までの巨人戦2試合で合計1得点だった打線が、9安打6得点のお祭り騒ぎだ。

 闘志が乗り移った。この日の試合前練習は雨天の影響もあり、室内練習場で行われた。糸井は黒いフェースガードを付けて練習をする鳥谷の姿を目で追った。13年には日本代表で第3回WBCをともに戦い、タテジマでもチームメートとなった同じ35歳の2人。骨折しながらもファイティングポーズを取り続ける姿に、熱い男も燃えないはずがなかった。

 前日24日には試合前に屋外で早出特打を行った。甲子園では全体練習前に毎日のようにマシン打撃を行う。頭を悩ませた金本監督も「やっぱりベンチのムードは糸井が出ることによって、相乗効果があったと思う」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。ただ、糸井は「勝って良かった。それだけ」と表情を緩めることはない。これじゃ足りない。まるでそう言いたげだった。【桝井聡】