<ソフトバンク1-5日本ハム>◇16日◇福岡ヤフードーム

 日本ハムに頼れる左腕が帰ってきた。八木智哉投手(24)が敵地でのソフトバンク戦で6回2死まで1失点と踏ん張り、チームの連敗を6で止めた。ルーキーだった06年に12勝を挙げ、リーグ制覇と日本一に貢献。新人王にも輝いた男が、昨年は4勝に終わり、今年も2軍での調整が続いていた。昨年10月2日の楽天戦以来となる1軍マウンドで319日ぶりの白星をつかみ、借金生活に突入していたチームを5割に復帰させた。

 コマのように、体が何度もクルリと回った。八木が力感あふれるボールを丹念に投げ込んだ。リリースした瞬間に、勢い余って背中が捕手へと向く。時折、球はうわずる。捕手の要求するコースと逆へもいった。「すんなり試合に入っていけるか心配だった」。不安を抱えながらも開き直った94球で、今季初登板初勝利。復活への第1歩を、力強く踏み出した。

 長かったトンネルの出口が見えた。入団1年目、12勝で新人王を獲得した06年。アジアシリーズで左肩に違和感を覚えた。以来、患部の状態は一進一退。昨季は4勝6敗と不本意な1年を過ごした。今季もキャンプから不安を抱えたままスタート。肩に負担がかからないフォームづくりに重点を置き、復活の時を見据えてきた。「自分では遠回りしたっていう感覚はない」。過去を捨て、将来のために自己改革に挑んだ。

 ビデオを見て繰り返しフォームを微調整。ソフトバンク杉内を参考にするなどし、再起への道を探ってきた。この日、直球の最速は138キロ。2、4回には小久保、松田を連続三振に切った。「ちょっとバテた」と6回に4安打を浴びて1点を失ったが、試合は完ぺきにつくった。チームの連敗を6で止め、わずか1日で借金生活からすくい上げた。「長かった。3年ぶり(の勝利)みたいな感じがするわ」。梨田監督の心労も取り払う、会心の勝利だった。

 昨年10月2日楽天戦以来の白星。スタンドには知佳夫人(22)と長男有将(ゆうしょう)君(1)の姿があった。9月に第2子を出産予定の妻は、身重の体で節目を見届けにきた。左打者対策として内角を突くツーシームを習得した夫は、生まれ変わった頼もしい姿を家族“3人”に披露した。「本当にこの1勝は大きい」。救世主となるべく、眠れる左腕がカムバックした。【高山通史】