<阪神2-4巨人>◇1日◇甲子園

 8月は貯金月間だ―。巨人が阪神の追い上げをかわして逃げ切った。初回に犠飛で先制すると、2回には亀井義行外野手(27)が、甲子園では17年ぶりとなるプロ初のランニングホームランで序盤に得点。先発のセス・グライシンガー投手(34)は7回1/3を4安打2失点の粘りの投球で9勝目。最後は阪神の拙攻に助けられた。7月は勝率5割で貯金のなかった巨人だが、熱い8月は白星先行で混セを乗り切る。

 右中間最深部に飛んだ亀井の打球が、あらぬ方向に角度を変えた。2回、先頭の5番打者。甲子園上空は普段の浜風と逆に、左翼から右翼へ風が吹いていた。思い切り引っ張ったボールは「いい当たりではなかったが、伸びましたねぇ」。慌てて追いかける阪神赤星と葛城の外野陣。2人が交錯すると、白球は坂を転がるおむすびのようにコロコロと、センターラインの中心まで転がっていった。

 亀井は二塁ベース付近でボールを確認。緒方三塁ベースコーチが大きく回す右腕に比例して、一気に両足の回転数を上げた。「絶対ホームにいける、と思いました。小学生の時は、ランニングホームランってのは多かったんですよ」。巨人のカメはチーム屈指の俊足だった。滑りこまず本塁生還。チームでは05年以来のランニング本塁打、甲子園ではなんと17年ぶりだ。

 出迎えのハイタッチは「なんだかみんな笑ってましたよね、普段より」。追加点は仲間を乗せ、波状攻撃が出た。2死から鶴岡、グライシンガーが連打。坂本に中前適時打が飛び出しこの回2点目が入った。坂本は「亀井さんのランニング本塁打で、勢いが出ましたよ」とニッコリだ。初回の1点と合わせれば、虎キラー・グライシンガーにとって十分な援護だった。

 13号ソロを放ったヒーローは、試合が終わっても「見た?

 見た?」とはしゃいでいた。甲子園の黒土を駆け抜け、一周するのはやはり格別。「気分良かった?

 ですねぇ…。走りながら笑ってしまいましたよ」と野球少年に戻って無邪気だった。だがこの8月初勝利について問われると顔が変わった。「監督は力がないのにボクを5番に使い続けてくれる。迷惑掛けてます。これから、監督にいっぱい恩返ししないといけません」と謙虚だった。

 原監督の思いは少し違った。「カメはすべてにおいて高いレベルで野球できる選手。だからああいうホームランが打てるんです」と語った。本塁打は風の力を借りた偶然の産物でなかった。6月から1センチ長いバットで練習。「長尺」をしならせ、遠くへ打球を飛ばす反復をコツコツ繰り返したことを、ケージ裏で毎日見つめて知っていた。勝負の真夏を白星発進。「亀の恩返し」が続けば、混戦なんて怖くない。【宮下敬至】

 [2009年8月2日9時29分

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