西武ドラフト1位の菊池雄星投手(18=花巻東)が14日、埼玉・所沢市の西武園競輪場で行われた新人合同自主トレ恒例の競輪トレーニングで大器の片りんをのぞかせた。練習当初は自転車に乗ることもままならなかったが、最後の1000メートルのタイムトライアルで周囲の度肝を抜いた。タイムこそ新人5人中2位だったが、限界までペダルを踏み込む精神力、下半身の馬力は圧巻。怪物左腕は15日、捕手を立たせたままだが、初ブルペン入りする。

 1000メートルタイムトライアルを終えた菊池は、力なく尻から崩れ落ちた。何度も立ち上がろうとするが、足に力が入らない。プルプルと、太ももは震えたまま。大迫トレーニングコーチが「生まれたてのシカみたい」と言うように、立とうとしてはガクンと何度も倒れた。足が長くヒョロッとしていることからつけられたニックネーム「子ジカ」そのものだった。タイムは1分29秒16。05年に星が出した新人記録の1分26秒25には及ばなかった。サドルなしの自転車で自宅のある盛岡から花巻までの片道35キロの道のりを往復したことがあるほど自信を持っていた。ドラフト6位岡本に次ぐ2位に終わった。約30度の傾斜があるコーナーに「予想以上に怖かった」と振り返ったが、与えた衝撃は誰よりも大きかった。

 最初こそハンドルがふらつき、指導したS級2班の田淵浩一選手(45)からは「一番センスがない」とまで言われた。それでも練習で乗りこなせるようになると、最後のタイムトライアルに見せ場が待っていた。特に周囲を驚嘆させたのが、立てなくなるまでペダルを踏み込む脚力だ。走行後も歩くことはできた他の4人とは対照的に、5分ほど立ち上がれなかった。「力が入らなくて、今までにない不思議な感覚でした」と顔をしかめたが、限界まで追い込んだ証しだった。

 大迫コーチが「普通だったら途中でやめちゃう」と言えば、田淵も「初めて乗って、普通は倒れるまで出し切れない」とうなった。02年に始まった競輪トレ。大迫コーチが「これまでああいう(限界までいく選手の)姿を見たことがない」と振り返るほど、ストイックさは群を抜いていた。そして怪物はさらなる進化を求めて、どこまでも貪欲(どんよく)だ。「悔しいです。トップになりたかった。これからは競輪以外にもいろんな練習をしてみたいです。体幹を鍛えるためにヨガとか」と笑った。

 ここまでは下半身をいじめ抜き、本業は順調そのものだ。この日、午前中の自主トレでキャッチボールの距離を約70メートルまで伸ばした。山なりばかりだったボールにも、キャッチボール相手のグラブを押し込むほどのボールが混じるようになってきた。「ライナーでのキャッチボールもできているし、第2クールの間に(ブルペンに)いければいいと思います」と充実感を漂わせる。その言葉通り15日、ブルペン入りする。捕手を立たせたままで、マウンドの傾斜の確認程度となりそうだが、ついに黄金ルーキーの剛球がミットへ投げ込まれる日が来た。【亀山泰宏】

 [2010年1月15日9時21分

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