<日本ハム2-4阪神>◇29日◇札幌ドーム

 待ってたで!

 阪神鶴直人投手(23)が、日本ハム戦でプロ初勝利をマークした。2回に押し出し四球を出すなど乱れたが、6回6安打2失点と踏みとどまった。05年の高校生ドラフト1巡目で入団してから故障の連続だったが、日本ハム・ダルビッシュに堂々と投げ勝ち、チームの連敗を2で止めた。大きく羽ばたいた鶴が、今度は駒不足の先発陣を支える。

 藤川が笑顔でくれたウイニングボールを、鶴は頭を下げて受け取った。みんながつないでくれた勝利のバトン。その両手が包んだ白球は、自身が5年間積み重ねてきた努力の結晶、宝物だ。交流戦首位の日本ハムをねじ伏せ、念願のプロ初勝利。「球児さんが出た時から、今日は勝てると思ってました。いろいろ大変なこともありましたが、目標にしてきたんで、本当にうれしい」。風雪に耐えた鶴が北の大地で羽ばたいた。

 ダルビッシュとの投げ合いに勝ち、価値は一層高まった。2回に3連打や押し出しなどで2点を許した。だがこれまでなら一気に崩れ落ちるがけっぷちで、踏ん張った。「低めを意識した」。ハートは熱く、頭はクールに修正。最速は141キロながら緩急を駆使して以後得点を与えず、6回2失点で逆転を呼んだ。力の源は、1学年上の「尊敬する先輩」への意地だった。

 大阪出身で中学時代はライバル同士。忠岡ボーイズの鶴が、全羽曳野のダルビッシュに投げ勝って以来の対戦だった。だがプロでは世界一エースにまで上りつめた右腕に対し、大半が2軍生活。天と地ほど差が開いた。だが野球の神様が北海道で用意してくれた、男を上げる大舞台。「向かって行く気持ち。必死な所もあったし勝利に貢献したかった」。魂の89球で9年前の快投を再現。推定年俸650万円の男が3億3000万円男を倒した。

 「焦り、不安だらけでした」。大阪桐蔭の辻内(巨人)&平田(中日)、履正社岡田(オリックスT-岡田)と並ぶ「浪速の四天王」の一角として、05年ドラフト1位で入団。だがひじ痛を抱えてのプロ生活は苦難の連続だった。2年間2軍戦でも投げられず、肋骨(ろっこつ)骨折、腰痛の追い打ち…。ようやく1軍に呼ばれた08年5月のプロ初先発ロッテ戦は、1死も取れなかった。自分はこのまま終わっていくのか…。夏が終わると戦力外通告におびえた。

 だがいつも電話で励まし、復活を願う両親を思えばボールは置けなかった。「ずっと心配ばかりかけてきた。野球で喜ばせたかった」。明日を信じ、夏の日も冬の日も、だれもいない鳴尾浜を走った。投球できない間、ひたすら“陸上部員”と化して鍛えた下半身が、初勝利の土台となった。

 「ウイニングボールは親に贈ります」。思えば高卒ドラ1で、同じように苦労した藤川が初勝利を挙げたのも4年目になってからだった。さあ一気のスターダムへ。本当の恩返しはこれから始まる。

 [2010年5月30日11時31分

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