<西武5-6中日>◇20日◇西武ドーム

 どん底にいた中日佐伯貴弘内野手(41)が奇跡を起こした。0-5で迎えた敗色濃厚の9回、ドラマが始まった。先頭打者としてこの日3安打目となる左中間二塁打で出塁すると、それまで西武のサブマリン牧田の前に沈黙していた打線に火がついた。適時打、押し出し、犠飛、押し出しで1点差。そして、2死満塁で打席は再び回ってきた。「誰も諦めていなかったし、もう1回まわってくるような予感があった。最後は無意識だった」と、グラマンの外角の変化球を左前へ運ぶ逆転の2点適時打。その瞬間、一塁側ベンチがはじけた。

 開幕から代打専任で13打数連続無安打だったが、今季初先発で自身4年ぶりの1試合4安打を放ち、ドラマを完結させた。「夢のよう…。いや、夢ですね!

 もともとなかった1年なんで…。ドラゴンズと落合監督とチームメートとファンの皆さんに恩返ししたいと思って、打席に立ちました」と、大喝采に目を潤ませた。

 昨季、横浜から戦力外通告を受けた際には引退もよぎったが、落合監督に拾われた。しかし開幕から38日間続いた無安打の日々。「もうだめだと思いそうになった。でも、その時に『待てよ。オレは幸せじゃないか』と思えた。だって、憧れの人の下で良いことも、苦しいことも経験できているんだから」。支えになったのは落合監督だった。佐伯は横浜時代から落合監督の著書を購入して、打撃理論を学んでいた。指揮官との骨太の信頼関係が、ドラマを生んだ。【鈴木忠平】