<阪神4-4横浜>◇29日◇甲子園

 伊良部さん、見てくれましたか-。阪神藤川球児投手(31)が、米国で自殺したと伝えられたかつてのチームメート、伊良部秀輝さん(享年42)に手向けの熱投を捧げた。セーブのつかない、同点の9回に登場。1死一、二塁のピンチを併殺で切り抜け、無失点に封じた。試合はドローに終わったが、故人の思いを胸に逆転優勝を目指す。

 静止しているバットでも絶対に当てさせない。藤川のこん身の速球にクローザーの意地が詰まっていた。4-4の9回無死一塁。金城は犠打の構え。初球、うなりをあげて高めに浮き上がる147キロは、ファウル。続く2球目の151キロもバットをかすめてバックネットをたたいた。

 マウンドに上がった時点で午後9時30分に迫っており、延長戦の可能性はなかった。9回表を抑えれば負けはなくなる。藤川はピンチを背負いながらも必死に歯を食いしばった。「いつもやっていること。いつもと一緒。また明日ですね」。0点に抑えた投球を、こう振り返った。

 金城のバント失敗のあと、一塁走者は盗塁死。気配を読んでバッテリーはボールを大きく外していた。その後、金城に二塁打を浴びたが、最後は1死一、二塁で新沼を投ゴロ併殺。虎の守護神は女房役の藤井彰を指さして感謝を示し、笑顔でマウンドを降りた。

 偉大な先輩のために負けられなかった。まだブレークする前の03年からの2年間、同じタテジマを着た大先輩。「いろいろな話をしたし、一緒にちょっと自主トレもした。当時から野球人という強い誇りを持っていた。野球少年のような、野球に対する思いがすごい強い方だった。一方では指導力のある先輩でした」。

 所属するマネジメント事務所も同じ。「タイガースが終わってからの方がつながりが増えましたね」。兄順一さんが当時GMを務めた独立リーグ高知に伊良部氏が所属したという縁もあった。藤川にとってはかけがえのない存在だった。

 研究熱心で、不器用ながらも人間味があり、そして野球をとことん愛していた。すぐ近くで、その姿を見てきた。伊良部氏との出会いは、球界を代表する投手に成長した藤川の財産だ。「そういう先輩の思いを大事にして、この先の野球人生をやっていきたい」。固い決意を抱いた夜。決して完璧な内容ではなかったが、全19球に魂を込めた。【柏原誠】