<楽天2-4ロッテ>◇1日◇Kスタ宮城

 ルーキー左腕がロッテの歴史を55年ぶりに動かした。ドラフト1位、藤岡貴裕投手(22)がプロ初先発となった楽天戦で初勝利。2試合連続2ケタ安打中の相手打線を最速150キロの直球と鋭いスライダーで封じ込めた。128球の熱投で7回2/3を4安打6奪三振で2失点に抑え、12球団ルーキー最速となる初勝利を挙げた。チームにとっても1957年以来となる開幕3連勝。大学3年までプロを夢見ることができなかった男が、晴れ舞台で輝いた。

 戦いの場であるマウンドで、藤岡は自然と何度も笑った。「自分が今まで見てきた選手が打席に立っていて、楽しいなと思った」。小さいころからプロ野球選手になれると思わなかった。それを思えば、楽しくないわけがなかった。

 喜びは力に変わった。開幕前の実戦では最速146キロ。だが1回から147キロを計測。5回に1点を失い、なお2死三塁でも「1点で抑えれば何とかなる。楽しい感じだった」と心が踊る。聖沢に投じた4球目は自己最速まであと3キロの150キロ。危険な匂いを感じるほど、腕が振れた。最後は左打者は最も打ちにくい、外角低めのスライダーで投ゴロに打ち取った。

 野球を楽しむ左腕は“持っていた”。疲労の濃かった8回、内村の体付近をえぐった直球がよけたバットに当たって投ゴロ。「巨人の星」の大リーグボール1号のようだった。「大リーグボールは知らないけど、当たっちゃったという感じ」。オープン戦登板を雨で2度も流し「持ってないです」と自嘲気味の時もあったが、勝負運は太かった。

 前夜は2戦目のヒーロー、ドラフト2位の中後に「明日は全部、投げろよ」と言われ「お前は(救援で)必要ないから」と軽口を返しながら午後10時に就寝した。いつもは熟睡できる体質。だが「午前2時に起きたり、3、4回は目が覚めた。(初登板まで)もう少しだなと思った」と体が敏感に反応した。

 プロのまばゆい舞台を初めて見たのは小3。部屋にポスターを張るほど大好きだったイチローを東京ドームで観戦した。スーパースターの姿を見て下敷きも買った。だがプロ選手になろうとは一切思わなかった。甲子園出場時の雑誌にも将来の夢は「幸せな家庭を築くこと」と載せた。「自分の力ではプロになれないと思っていた。大学3年の時に現実になれると自信がつくまで、変わらなかった」。ウエート禁止の大学方針の中、徹底した走り込みで球速が10キロアップし、注目を浴び始めた2年前にやっと大志を抱けた。

 2年後のこの日、藤岡はチームを55年ぶりの開幕3連勝に導いた。「新聞で知って、ぜひ達成したかった」。プロは不可能と思っていた男がつかんだもの。「まだ始まったばかり。でも今日の試合で少し自信がついた」。この世界で生き抜ける確信が芽吹いた。【広重竜太郎】

 ▼ルーキー藤岡がデビュー戦を白星で飾り、ロッテは開幕3連勝。ロッテの開幕3連勝以上は、毎日時代の50年3連勝、52年7連勝、57年3連勝に次いで55年ぶり4度目になる。ロッテの新人で初登板初勝利は、08年4月26日唐川がソフトバンク戦で記録して以来、4年ぶり。ドラフト制後(66年~)では72年倉持、77年仁科、83年石川、08年唐川に次いでチーム5人目だが、藤岡は開幕カードで達成。開幕カードで初登板初勝利を記録したロッテの新人は、ドラフト制以前の50年榎原が開幕戦で完投勝利を挙げて以来、球団史上2人目だ。