<セCSファイナルステージ:巨人3-2中日>◇第5戦◇21日◇東京ドーム

 巨人原辰徳監督(54)が執念の采配で逆王手をかけた。2勝3敗で迎えたセ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第5戦。同点の9回、4人の代打と代走を費やし、石井義人内野手(34)のサヨナラ打を導いた。3連敗を喫し、1敗もできない崖っぷちから2連勝。リーグ優勝のアドバンテージを含めて、3勝3敗のタイとした。セCSファイナルが最終6戦目に突入するのは初。今日22日はまさに大一番となった。

 誰彼構わずたたかれ、水をかけられたびしょぬれのヒーロー石井のもとに、目を見開いた原監督が歩み、両手を広げ、抱きしめた。徳俵に足を付けた3連敗から2連勝。劇的すぎる逆王手だ。会見場にはユニホームの胸をつかんで「ぬれちゃったな」と言いながら登場。戦いの余韻で体は火照る。多少ぬれたぐらいがちょうどいい。「ああいうヒットが出るのは、素晴らしい。ウチの選手もまだまだ見習う選手がたくさんいるように思います」と、ベテラン石井の打撃を絶賛した。

 執念の采配だった。9回、岩瀬に猛然と襲いかかった。まずはボウカーの代打に矢野を送り出す。7月14日、ナゴヤドームの9回に岩瀬から2点を奪って2-1逆転勝利の夜も、中前打を放っている。その矢野が、初球をクリーンヒット。矢野の雄たけびがベンチを熱くさせた。続く古城はバントを2度、失敗するが、仕切り直しのバスターを決め無死一、二塁。さらに、代打寺内は1ボールからの2球目をキッチリ犠打成功。となれば、長野敬遠で1死満塁だ。

 代打谷を送ると中日は岩瀬をあきらめ、山井投入。「想定していた」と原監督。ビジョン通りの流れの中、代打の代打、石井に託した。岡崎ヘッドは「1死満塁だからね。あそこで決めようと」と振り返る。勝負手に石井が見事に応えた。

 9回だけで、代打4人に代走1人(矢野→鈴木)。5人を投入する積極的采配。しかも、全員がビタビタに決まった。「今年のウチには捨て駒がいないんだ」と、原監督は話す。全員が課された役割を忠実に実践する。そんな底力を見せつけた勝利だった。

 まさかの3連敗で「まあ、もう1敗もできない状況になった」と話したのが19日。後のない重圧をはね返し、初勝利した前夜の20日は「胃が5つあっても足りないよ」と苦笑いを浮かべた。ギリギリの戦いの中、この日の試合前はナインに「力まないで楽に行けば大丈夫だから」と声をかけた。硬軟合わせたタクトで、力を発揮できるようリラックスさせて、選手をグラウンドに送り出した。

 今日、勝てば3年ぶりの日本シリーズ。「プレッシャーのかかる場面で2試合戦って、いい結果で決戦を迎えるわけですから。明日は逆にのびのびと、しっかり戦っていきたい」と語った。徳俵から、土俵中央に戻した。いや、もはや、かなり押し込んでいる。【金子航】