これは毒ガス?

 それとも、愛の激励?

 元阪神監督の野村克也氏(77=野球評論家)が15日、宜野座キャンプを訪れた。監督時代、選手だった和田豊監督(50)と1時間以上も話し合った野村氏は、今季の虎について「打線は問題ないでしょう」と絶賛。一方で投手力の不安を指摘した。勝負の2年目へ、和田監督に「優勝の鉄則」をアドバイスした。

 雨の宜野座球場へ、野村氏がやってきた。2年連続のキャンプ視察。室内練習場に用意されたイスへどっかりと腰を下ろした名将の下へ、次々とスタッフ、選手があいさつ。そして、和田監督が来ると“師弟”の野球談議が始まった。

 「冷やかしに来ただけ。激励だけしてきました」

 1時間以上、話し込んだ後、球場を出てきた野村氏はにやりと笑った。昨年は巨人の独走を予想し、1年目の和田監督に「Aクラス狙い」のススメを説いた。

 「今年はAクラスに入らないと、立場上ねえ。まあ、大丈夫だよ。と、思う。西岡、福留で、打線は問題ないでしょう」

 日本人メジャーリーガー2人を補強した打線の破壊力には太鼓判を押した。ただ、ここで終わらないのがノムさんの、ノムさんたるゆえんか。チームが現在、抱えている不安点をズバリと指摘した。

 「ただ、野球はピッチャーだけどね。(和田監督に)ローテーションにだれが入るんだと、4、5人、名前聞いたけど、そこのところが少し心配だね。長年のプロ野球の歴史の中で、攻撃力のチームで優勝したところはない。V9の巨人もいい投手がいたから勝てた。王、長嶋がいたから打つ方が目立ったけど。昔の西鉄もそうだった」

 先発は能見、岩田、メッセンジャー、スタンリッジまでは確定だが、5人目以降は新人藤浪ら若い力の台頭を待つような状況だ。また、リリーフでは守護神藤川が米大リーグ・カブスへFA移籍した。球団が新たな外国人投手の調査を継続しているように、投手陣には若干の不安がある。名将はそこを瞬時に見抜いた。

 和田監督は有意義な時間に感謝していた。

 「打線?

 それも含めていろいろな話をさせてもらいました。昔のミーティングを思い出しました。選手が入れ替わり、立ち替わり、打撃練習するので、それを見ながら技術論、配球論なんかをね」

 独特の存在感で宜野座を席巻した元監督は去り際にひと声、発した。

 「乞う、ご期待」-。

 阪神も、和田監督も、心配だからこそ、ひとこと言わずにはいられない。チクッと刺激のある指摘がチームの糧になる。【鈴木忠平】

 ◆12年野村氏の阪神キャンプ訪問

 2月17日、宜野座キャンプに登場。01年の監督退任後、阪神キャンプ訪問は初めてだった。「巨人が強いチームづくりをした。2位狙いでいいんじゃないか」と毒ガスを発射。一方、和田監督と話し込み、打倒巨人のアドバイスを送った模様。選手、兼任コーチとして野村監督とともに戦った和田監督は「野村監督がやってこられたことは、すごく参考になる。今日は3年間で学んだことを再確認できた。それをいかに選手に伝えるか、どうやって点を取っていくかを話してもらった」と感謝していた。