<阪神3-8巨人>◇16日◇甲子園

 巨人が誇る「代打の神様」が、阪神を沈めた。2点を追う7回1死二、三塁、代打に送られた矢野謙次外野手(32)が、同点の適時二塁打を放った。交代直後だった阪神加藤の初球、内角低めのスライダーをジャストミート。この回8得点のビッグイニングにつなげ、阪神との差を3・5に広げた。今季の代打成績は30打数12安打で、打率4割に到達。勝負強さの裏には、プロ11年目の周到な準備があった。

 一振りでビッグイニングののろしを上げた。7回1死二、三塁。矢野は「代打の代打」で打席に入った。初球。阪神加藤のスライダーは厳しい内角低めだった。体を折り曲げてバットの芯に合わせた。三塁線突破の2点適時二塁打。同点打を「初球からと思っていたが、見逃せば、ボールだったと思う。でも体が反応した」と振り返った。

 代打の初球で、体勢を崩しながら、ボール球を打った。一見、無謀な悪球打ちにも映る。だが矢野は「準備が大切。先発でも代打でも、準備です」と納得ずくだった。今季の代打率4割、14打点の勝負強さは、周到な準備が支えている。

 “曲芸打ち”は練習通りだった。試合前は、ゆるゆるのグリップで、バットの芯にボールを軽く合わせる練習に徹する。ボール球だろうが全部振る。トス打撃のようなスタイルは4年ほど前に発案した。当時の篠塚打撃コーチに「足を使って、しっかり打って!」と言われたが、頑固一徹を貫いたのには理由があった。

 矢野

 このスタイルにしてから内野の頭を越すのがせいぜい。でも本番では絶対に力が入ってしまう。練習はとにかく力を抜いて、コンタクトに徹して確認することが大事と思った。

 自分を貫いてきたが、11年目の今季、大きな決断をした。昨冬、主将の阿部に頭を下げて、初めてグアム自主トレに同行した。阿部を慕う後輩たちから、技術を盗むつもりだった。

 矢野

 自分に足りないものはたくさんあるけど、まずは打力。今、巨人で一番の右バッターと言えば、長野と坂本。彼らから少しでも吸収しよう。

 聞き込みに徹した。内角の名人坂本、外角の達人長野。後輩からも学ぶ柔軟な姿勢があった。

 3連戦の前には、対戦する可能性のある投手の直近映像を、1時間30分もかけて見る。だから「代打の代打」でも、加藤の球筋は「頭に入っていた」と言った。巨人の職人が、虎を3・5差に引き離した。【宮下敬至】