<楽天6-5ロッテ>◇25日◇Kスタ宮城

 優勝を予感させるような劇的な逆転サヨナラ勝ちだ。楽天がロッテとの首位攻防戦で3連勝した。同点とした9回、1死一、二塁から3年目の榎本葵外野手(21)が右中間へ適時二塁打を放った。0-4の7回から反撃し、終盤で追い付き2試合連続の逆転勝ち。ロッテとの差を5・5ゲームに広げて、明日27日にも球団史上初の優勝マジックが点灯する。

 打球は一直線に右中間へ飛んでいった。榎本が、9回1死一、二塁でロッテ益田の直球をとらえた。プロ初打点が首位攻防戦での劇的なサヨナラ打だ。手荒い水かけを浴び、ユニホームはびしょぬれ。グラウンドに倒れ込み、仲間と抱き合った。「魂で打ったので、頭真っ白で覚えてないです。すごくうれしかった」と興奮気味にまくし立てた。

 イメージを高め、出番を待っていた。7回に4点差を追い付くも、直後の8回に勝ち越された。その8回にジョーンズの代走で起用されたため、打順は4番。1点を追う9回、「良いところで回ってくる」と自分に言い聞かせた。その通り同点となり、1死二塁で3番銀次が敬遠され、打席が回ってきた。星野監督は「(代打は)ちらっと考えたけど、同点だし、行けー!

 と。当てに行くな!

 振れ!

 と言った」。指揮官に背中を押され、見事、期待に応えた。

 持ってない男が持ってる男になった。2月24日、沖縄・那覇でのオープン戦の試合前だった。チームメートが投げたボールが右あごを直撃し骨折した。「もう少し上だったら、ヘルメットの耳当てに当たっていたのに…」と嘆いたが、星野監督には「バカだ!」と激怒され2軍降格。そこから、はい上がった。2軍戦76試合で打率2割9分6厘を残し、今月21日に昇格。「力を付けて、実力で上がる。上がったら、全力で声を出して盛り上げていく」と誓った通り、この日もベンチで大声を出し続けた。

 実は、星野監督は「体が大きいわりに振り込みが足りない。まだ3年かかる」と見ていた。それでも、シーズン終盤の首位攻防戦の前に昇格させた。「将来を背負う子に今の雰囲気を味わわせてあげたい」という親心があった。サヨナラ打の後、笑顔で榎本の頭をポコポコたたいた。「夢を見ているみたいだ。おめでとう!」と喜んだ。

 お立ち台で、榎本は「若さで、ここから頑張ります」と宣言した。名前の「葵」には、ヒマワリ(向日葵)のように太陽に向かって大きく育って欲しいという、両親の願いがこめられている。その名の通り、育ち盛りのヒーローが誕生した。【斎藤庸裕】

 ◆榎本葵(えのもと・あおい)1992年(平4)7月24日、神奈川県生まれ。九州国際大付2年夏の甲子園に出場し、2回戦の樟南戦で決勝本塁打。10年ドラフト4位で楽天入団。昨年5月26日DeNA戦(Kスタ宮城)で1軍デビュー。通算18試合、20打数4安打、1打点、打率2割。179センチ、78キロ。左投げ左打ち。今季推定年俸680万円。