<中日0-2広島>◇25日◇ナゴヤドーム

 広島が中日を下し、16年ぶりのAクラス入りを確定させ、初のクライマックスシリーズ(CS)進出を決めた。8回2死一塁からブラッド・エルドレッド内野手(33)の13号2ランが決勝弾となった。就任4年目の野村謙二郎監督(47)にとっても悲願達成。10月12日からのファーストステージで阪神と対戦する。

 負の歴史に終止符を打った。野村監督が、チームを暗黒時代から救い出した。0-0の8回2死一塁。4番エルドレッドの左翼スタンド3階席へ飛び込む13号2ランが、勝利をたぐり寄せた。指揮官は、驚きとともに高野手チーフコーチと落下点を確認しあった。16年積もり積もった喜びを分かち合うのに、ふさわしいアーチだった。

 野村監督は「遅かったけど…。今日は素直に喜びたい。このシステムになってから、時間がかかりましたが、また、新たな歴史を築き上げられました」と、興奮を隠さなかった。自らの現役時代が頭をよぎる。91年、最後のリーグ優勝時は、3年目ながらクリーンアップとして活躍。95年にトリプルスリー、05年に2000安打を達成した熱血漢の存在感は、チームでは絶対的なものだった。

 現役晩年は指揮官になることを思い描いていた。05年5月15日オリックス戦。1回に6点を先制しながら、先発大竹が3回途中までに6失点し降板。スカイマークスタジアム(現ほっともっと)のベンチ裏で「もう、ダメです」と弱音を吐く後輩に出くわした。投げやりな「負け犬根性」が許せず、思わず鉄拳を食らわせてしまったことがある。引退翌年、大竹を自宅に呼び出し、ビールをつぎながら思いを告げた。「おまえはこれからだ。あのときから、お前を育てるのがおれの役目だと思っていた」。

 チーム再建の切り札として、09年オフに就任。「やるからには優勝を目指す」と誓ったが、理想と現実はかけ離れていた。昨季の本拠地最終戦となった、10月4日ヤクルト戦の試合後だ。就任1年目のオープン戦最終戦以来、ファンの前でマイクを握った。2年連続の9月の大失速に、ファンは声を荒らげた。1年目のような期待に満ちた声はなく、言葉はヤジにかき消された。精神的にも疲弊し、頭には「辞任」の2文字もよぎった。

 集大成と位置づけた今季、自ら変わった。1、2年目に課していたシーズン中の厳しい練習も撤廃し、自主性を重んじ選手との対話を重視。声のかけ方も、選手の性格に応じ、最善の方法を選んだ。契りを交わした大竹に指示を与えるときは、自らマウンドへ駆け寄った。絶対的な存在が、目線を下げチームに「和」が生まれた。「選手が負けられない試合を肌で感じ、結果を出してくれた」。目標を達成ではない。ただ、求め続ける新たな常勝軍団の礎を築き上げたことは確かだ。【鎌田真一郎】