巨人沢村拓一投手(25)が今オフ、200キロ以上のバーベルと決別した。そんな情報が耳に届き、都内のジムに急行した。中大入学時に72キロだった体重は、ハードなウエートトレーニングの成果から、プロ3年目には102キロに到達。150キロを超える直球の礎を築き上げ、プロへの道を切り開いた。彼を支えた練習を本当にやめたのか。そして、なぜやめたのか。沢村の「今」に潜入した。

 午前9時30分、都内のジムに沢村が現れた。ストレッチを終え、バランスボールなどを使いながら、体幹強化のメニューを消化。「フゥー」と息を吐き、へその下の丹田に意識を集中させた。沢村の自主トレといえば、200キロ以上の重さでのスクワットが当たり前だった。2時間後、バーベルに目もくれることなく、ジムを去った。

 沢村

 200キロの重量もそうだし、バックスクワット自体やってないです。理由ですか?

 スクワットの動きはピッチングの動作にはないんです。ウエートを続けて、土台はしっかり作れたと思うので、その体をいかに使い切れるか。そこを意識しています。

 一時、むさぼるように読んだ500ページ以上ある体の専門書も開く機会は減った。「トレーニングの中で、理解できればいいんで」という意識の変化からだった。信念を持ち、大学時代から続けた練習をやめた。理由は明確だった。

 沢村

 3年やったけど、結果を残せなかった。今年、真価が問われる年だと言われているのに、同じことを繰り返しているようではバカでしょう。あれだけ結果を残されている阿部さんでも、年が変われば打撃フォームを変えると聞いた。課題をクリアするために。僕みたいな選手が何かを変えるのは当然。

 150キロ超の直球で打者を制圧。誰もがそのスピードと威力を絶賛する。入団時、周囲から「15勝できる」と言われながら、3年間で1度も届かず。その現実を自身はどう見るのか。

 沢村

 僕に足りないのは技術。例えば2死満塁、ノースリーで変化球3球で勝負ができるか。1ボール2ストライクの状況をいかに作るか。150キロを最後まで投げられたとしても、6割は変化球が必要。真っすぐだけで勝てるような甘い世界ではないし、勝つための技術を僕が身に付けられれば。先発である以上、15勝は目標です。

 時にぶっきらぼうに見えても、自らの道を信じ、突き進むのが沢村だった。そんな男に、道の修正を促したのはダルビッシュ(27=レンジャーズ)だった。「ダルさんからいろいろと話を聞いて、このままではダメだし、終わってしまうなと。変えるなら、今しかないと思った」。確かに、礎を築いたのはウエートトレだが、今、必要なのはピッチングに生きる練習と考え方だという。練習後、色紙に記したのは「20世紀最高の経営者」と称されるジャック・ウェルチ氏の言葉だった。「変革せよ、変革を迫られる前に」。【久保賢吾】

 ◆沢村のプロ3年間

 11年は11勝11敗。200投球回で防御率2.03と安定し、新人王に輝いた。オフにウエートと食事制限による肉体改造を行った12年は、シーズン最終登板で10勝到達(10敗)。ポストシーズンでは復調した。13年は5勝10敗。MVPを獲得したオールスター後に苦しみ、終盤はリリーフに回った。

 ◆ジャック・ウェルチ

 アメリカの実業家。「伝説の経営者」「20世紀最高の経営者」と呼ばれる。大規模なリストラ、規模縮小による資本力の立て直しと、企業買収、合併(M&A)を行い国際化を図る手法を採用し、米ゼネラル・エレクトリック(GE)社を世界最大の複合企業に押し上げた。78歳。

 ◆体幹トレーニング

 体幹とは手足、頭を除いた胴体部分のこと。腹筋、背筋、大胸筋、腹斜筋などを鍛えることで体を安定させ、体の軸が意識できるようになる。バランスボールやメディシンボールを利用する場合もあり、ソフトバンク時代の和田(カブス)はカヌーで、黒田(ヤンキース)は鎖を振り回すメニューで体幹強化を図った。