ゴジラがバットで後輩たちに世界の力を伝えた。巨人松井秀喜臨時コーチ(39)が宮崎キャンプの9日、ついにフリー打撃で実演を行った。1軍選手が打撃ケージの後ろに整列して見守る中、22スイングで最長125メートル弾を含む5本の柵越え。メジャーを生き抜いたパワーを目の前で見せつけ、大いなる刺激を与えた。

 打席に立ったのは「松井コーチ」ではなかった。世界と渡り合った「打者松井」だった。ひと振り目から放物線を予感させる力強さ。そして4スイング目。甲高い打球音、ゴジラにしか描けない角度をつけて放物線が右翼席に飛び込んだ。後方で整列して見守っていた後輩たちにクルリと体を向けガッツポーズ。現役時代は1発に、はしゃぐことはほとんどなかった。「照れ隠しです」。行動は引退したことを物語っていた。だが打棒は、現役そのものだった。

 22スイングで右翼席へ5発。スタンド中段への125メートル弾を2本も運んだ。最後も1発で締め、スタンドから「まだ現役だ!」と声が飛んだが、本人は全盛期とは別物だと強調した。「強く振った方がいいかなと。今の中での強くなので決して強くない。(現役時代とは)全然違う」。打ち損じも多かった。だが、すごみは十分に伝わった。

 最低限の準備しかしていない。引退後の1年間は、昨夏にヤンキース1Aでフリー打撃をし、昨年末にニューヨークで阿部を相手に打撃練習したぐらい。今キャンプでは、7日に室内ドームで秘密練習を10分、この日の午前中に室内練習場で非公開で30分間、打ち込んだ程度。「言うだけ言って、自分のを見せて『何だよ』と言われるのは恥ずかしい」と控えめだったが、誰もが認める打撃だった。選手も、迫力を間近で感じた。

 打撃投手を務めた阿部は「音がすごかった」と証言。村田は「アッパースイングじゃなくて、レベルスイングであれだけ角度をつけられるのがすごい。すごいと感じるだけではだめ。ヒントにする」と最高の教材とした。背筋を伸ばす思いだったのは亀井だ。「1年以上打っていなくて、それであの打球。僕は引退しないといけない。もっと頑張らないといけない」。現役に匹敵する力があっても先輩は引退した。後輩としてより一層の努力を誓った。

 この刺激こそが、原監督が実演から求めていたものだった。指揮官は「意義ある貴重な時間だった。特長であるトップに引いてからの利き手の強さ、ボールをたたく間の引きの強さは健在だった。打球も現役時代をほうふつとさせるリアルな時間だった」と言った。

 松井コーチは後輩たちに見せつけるという大上段のつもりはなかった。「監督から若い選手に見せてほしいということだったので。でも語るほどのものじゃない。今の自分の打撃にヒントがあるかどうかは分からない。何かあったことを祈るだけ」。極上の時間を後輩たちは今後、有意義に使うはずだ。【広重竜太郎】