<広島3-1阪神>◇16日◇マツダスタジアム

 プロ初星で首位死守じゃ~!

 広島ドラフト1位の大瀬良大地投手(22)がデビュー3戦目の先発マウンドに上がり、本拠地マツダスタジアムでプロ初勝利を挙げた。ゲーム差なしで迎えた2位阪神を7回5安打1失点(自責点0)。打っても5回にプロ初安打となる左翼線2点二塁打を放った。6連勝中の強力打線を封じ、投打の活躍で虎に再び1ゲーム差をつけた。

 まるで高校球児だ。大瀬良は「よっしゃっ!」と叫び、走った。1点リードの5回2死一、三塁。8番石原が歩かされた直後、苦手な打撃で左翼線2点二塁打を決めた。「敬遠されて、めっちゃ悔しくて…」。大学はDH制のリーグに所属し、高校3年夏の長崎大会以来の快音はプロ初安打。両手を夜空に突き上げた。

 「僕のとりえは気持ちしかないので」。最速149キロの直球で果敢に内角を突いた。味方失策により失点したが、6連勝中で12球団最多得点数を誇る2位阪神打線を7回5安打1失点。プロ初勝利を記録し、お立ち台では「ぶち最高です!」と広島弁で叫んだ。

 1度だけ、家族に怒りをぶつけたことがある。10年5月。九州共立大1年生エースとして、リーグ優勝を導いた試合後だ。母さつみさんから祖母喜代美さんの死を知らされた。実は前日の朝、享年72歳で亡くなっていた。「なんで言ってくれなかったんだよ!」。葬式にも間に合わず、珍しく声を荒らげた。大学最寄りのJR折尾駅から祖母が眠る東長崎へ。満員電車で揺られながら「堪えられなくて」立ったまま号泣した。

 「おばあちゃんっ子だったんです」。2歳下の弟元気君がダウン症を患い、誕生直後から入退院を繰り返した。母が弟に付きっきりになった時、喜代美さんは東長崎から大村市の自宅まで兄の子守に来てくれた。孫が載った新聞にほおずりしてくれる祖母だった。長男の大瀬良は高校3年の10月、父禎弘さんから祖母が末期の肝臓ガンだと聞かされていた。休みの度にお見舞いに向かった。それなのに何故…。「教えたら絶対に帰ってくるでしょ?

 だから言わなかったのよ」。嫌われ役に徹した母の言葉に、言葉が出なかった。

 「今も1人でこっそり墓参りに行っていますけどね。今なら、あの時どれだけ家族が僕の事を考えてくれていたのか理解できます」

 この日は大瀬良に内緒で、母と弟、妹の3人が球場に駆けつけていた。ロッカールームでウイニングボールを手渡した。「(中学2年で)肘を壊して野球をやめようとした時、家族は好きなら続けろと後押ししてくれた。感謝しています」。何があっても夢を追い続けて-。大瀬良は家族の覚悟を背負い、マウンドに立ち続ける。【佐井陽介】